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気を引き締めて(1)

始業式も終わり、今日は授業初日。そして生徒会執行委員の立候補期間が始まる。 「気を引き締めていかないと…」 昨日にも手にしたものと同じ薬を飲み下し、頬を叩いて気合いを入れる。 ふと見た車の窓に反射した皐月の顔色はとても良く、昨日のケアがかなり効いたことが分かる。 すみれの顔色も、今朝皐月を起こしに来てくれた時から良かったので、きっと昨日言っていたパートナーとやらにケアをして貰ったのだろう。 「そろそろ到着しますよ。」 すみれの声が前から聞こえてくる。 体調も良い、精神的にも安定している。今日はきっと大丈夫だ。 皐月は自分に何度もそう言い聞かせながら、校門のほど近くに停まった車のドアを開けた。 ───────────────────── 「よっ!今年も同じクラスだな。」 そう言いながら皐月の肩を叩いてきたのは、去年同じクラスで仲良くなった高嶋和也(たかしま かずや)だ。 「和也!今年もよろしく。」 挨拶を返すと、にかっと笑った和也は1つ前の席に座った。まだ初日だからと今日は出席番号順に座るらしいが、和也とは苗字が近いので必然的に席も近い。 「そういやお前、今年は生徒会入るんだろ?」 荷物を置いて落ち着いた和也が振り返って聞いてくる。 「うん。そのつもりだよ。」 「噂だとうちのクラスの担任がさ、生徒会の担当もするらしいぜ。」 噂好きの和也は、色んなところで聞いてきた話の中でも俺に関係しそうなものを選んで話してくれる。 「めちゃくちゃ厳しいで有名らしいから、もし生徒会入れても、目つけられないように気をつけないとな。」 「入る前から脅すなよ!」 意地の悪い笑顔で告げてきた和也を睨んで、軽く肩を叩いて笑って、そしてまた違う話題を出そうとした時だった。 ガラガラっと扉が音を立てて開けられ、教室中の視線が入口に向かう。 友達の机で談笑していた者たちは自分の机へ、本を読んでいた者はカバンへしまい、こっそり携帯型ゲーム機で遊んでいた者は慌てて隠す。 「今日からこのクラスの担任の油木藤吾(あぶらぎ とうご)だ。よろしく。」 先生が挨拶しても特にクラスから反応はない。皆緊張しているのだ。 「そう緊張するな。厳しいって噂が流れてたみたいだけど、よっぽど目に余らない限りは悪くはしない。 でもそこのお前のゲームは預からせて貰うぞ。」 さっき慌ててゲーム機を隠した男子がヒッと軽く声をあげ、素直に先生に渡しに行く。 確か1回目のゲーム機持ち込みの違反は1日取り上げだったか。 「悪くはしないって言い方がもう怖えよな」 ひっそり話し掛けてくる和也を前に向かせ、皐月も先生の方を見る。 「色々と伝えないといけないことがあるんだが、まずは生徒会についてだな。」 皐月が自分に関係のある話題が出て少し緊張する。 「立候補する者は、今日の放課後生徒会室に集まるように。 俺も生徒会担当だから行くが、うちの生徒会は目回るほど忙しいから、半端な気持ちのやつは立候補するなよ。」 花柳学園は、どこかの企業の社長や投資家、開業医の息子など、殆どがお金持ちの家の子供が集まる男子校で、将来家を継いだり起業する道に進む者が多い。それ故か、この学園の生徒会では、学園の行事や(まつりごと)の運営を、殆ど教師が介入することなく生徒だけで行うことになっており、それを目当てに経験を積むために生徒会に入る者もいる。 皐月もそうだ。将来父の跡を継ぐため経験を積んでおきたい、そう考えての生徒会立候補だ。 忙しくなることが分かっているため、毎年立候補者数はそう多くないが、それでも緩んだ気持ちでは選挙で選ばれないだろう。昨日のようにならないように、あの生徒会長に会っても平常心でいられるように、膝の上の拳をぎゅっと握りしめてより決意を固くした。

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