72 / 163

第72話 5人のともらち こじ

「久世小次郎君」 小次郎はその名前が大嫌いだった だからそっぽを向いた 流生達はそれを知っていたから、小次郎を守った 流生は「らめ!ちょれ、らめ!」と怒った 小次郎は泣き出した 音弥は小次郎を抱き締めた 「こじ、らいじょうぶ」と慰めた 太陽と大空は両手を広げて小次郎を守った 翔は「こじ のちゃからもん」と保母に怒った 保母は5人の反撃にあい…… 職員室に帰った 流生は家に帰ると、かぁちゃに訴えた 「かぁちゃ」 「あんだよ?流生」 「あにょね、こじ ないちぇたの……」 「………こじ……それは誰ぞよ?」 「こじらもんよー」 「………それ、かぁちゃ解らなーず」 康太が言うと流生は泣き出した 翔が流生を守って康太の前に立ちはだかった 「翔、こじって誰よ?」 「ほちくえんのきょ!」 「保育園の子?仲良いのかよ?」 翔は頷いた 「で、あんでその子は泣いてたんだよ?」 康太が聞くと音弥は 「にゃまえ!ちらうの!」 「………???名前が違う?」 康太はお手上げだった 一生を見ると同じく両手を上げていた 「伊織」 「何ですか?」 「明日、保育園に行くか?」 康太が言うと流生は 「らめ!あちた、ここいくの!」 と、東栄社の出版の本を持って来た 「………東栄社……」 「かぁちゃといくの!」 「………東栄社は広いぞ……」 康太は呟いた 榊原は「………東城さんに頼んで子供連れが来たら教えて貰うしかないですね」と苦戦を覚悟で東栄社に行く事を決めた 「りゅーちゃ いきゅ!」 流生が言うと翔が 「りゅーちゃ らいひょう!」 「………翔……難しい言葉知ってるな」 「かじゅ おちぇてくりぇた」 康太は一生を見た 一生は子供相手だと言っても手を抜かない 目線を同じにして子ども達に教える 「そっか……かじゅが教えてくれたのか」 「ちょお!」 翔は照れて笑った 笑った顔は……飛鳥井瑛太だった 流生は益々一生に似て 音弥は隼人に似てきた 太陽は笙で大空は榊原に似て来た 顔立ちはしっかりして来た 「なら流生、明日は代表で行くんだぞ」 「あい!」 流生は踏ん張って返事した 東城に朝から逢いたいとアポを入れると快諾してくれた そして事情を話すと受け付けに子連れの人が来たら連絡を入れて下さいと頼んだ 連れて来る子供は3歳児 受付嬢はチェックしてくれていた お昼を少し回った頃 「3歳児のお子さんをお連れした方が小説の編集部に行かれました」と連絡を貰った 東城は「小説の編集部だそうです」と教えてくれた 「そっか!なら、小説の編集部に行ってくるわ 東城、世話をかけたな」 「いいえ!君のお子さんとの一時、楽しく過ごせました またお越し下さい!」 康太は片手を上げて社長室を後にした 榊原が流生を抱き上げた 「とぅちゃ」 「何ですか?流生」 「りゅーちゃ ありゅく」 「なら手を繋ぎましょうね」 榊原は流生を下ろして手を繋いだ そして小説の編集部へと向かった 小説の編集部は移動して3階のフロア全部を使っていた 康太は小説の編集部の編集部の中へと入って行った 取り敢えず編集長の脇坂に話して……と考えて、編集長のデスクへと向かった 編集部の皆は突然現れた飛鳥井家真贋の存在に固まった 脇坂が康太に気付いて話し掛けた 「康太さんお久しぶりです」 康太が脇坂……と話をしようとすると、流生は走り出した 「こじ!」 叫ぶと編集長のデスクの椅子に座る子供が椅子から下りて流生の所へ駆けてきた 「りゅーちゃ……りゅーちゃ」 こじと呼ばれた子は流生に抱き着いて泣いた 康太は脇坂に 「脇坂、この子は誰の子よ?」と問い掛けた 「この子は久世王堂の子で、野阪が育ててる小次郎と言います」 「この子、飛鳥井の託児所に通ってる?」 「はい!あそこが家から近いので瑛太さんに頼んで入れて貰いました」 「あんで、瑛兄?」 「篤人兄経由で頼みました」 「そう言う事か で、この子は保母に名前を呼ばれて泣いてる訳か…」 康太が言うと脇坂が 「この子は久世と言うと嫌がるのです ですから託児所には野阪小次郎として入れてあります 保母さんには野阪と呼んで下さいとお願いしてあります」 編集部は小さな男の子の友情を見守っていた 流生は小次郎を撫でていた 兄貴肌の流生にとって小次郎は守るべき存在なんだろう 微笑ましいその光景に編集部の皆はお菓子を用意した 「脇坂」 「はい!」 「この子の存在は……」 「大丈夫です 我が編集部は他言は無用な事を言ってのける莫迦はおりません!」 「………頼むな……」 飛鳥井康太の子 即ち、飛鳥井康太にトドメを刺せる材料になりかねなかった 「……この子の存在も……出せません 久世を名乗る以上は……目の色を変える存在もいる…… しかも……この子は野阪を気に入って居着いてしまった子です…… 何かあったら……解って下さい」 元華族で、財閥の血を与しお家柄で、一流企業に君臨する久世の家の者だと言うだけで…… 誘拐や営利目的の材料にされかねなかった 野阪は「りゅーちゃ、ありがとうね!」と流生と話していた 「ともきゅ、こじ ないちぇた……」 「だから心配してくれたんだ」 流生は頷いた 康太は野阪に話し掛けた 「野阪、流生と仲良しかよ?」 「はい。託児所に迎えに行くと何時もお話ししてくれるんです 飛鳥井の5人兄弟は皆優しいです」 「………この先もお前が育てるのか?」 「………小次郎は王堂が嫌いみたいで……見ている方が可哀想になる程に意識し合ってるんです 王堂も小次郎も……見ていられなかった 宮本はその中に入って小さな小太郎を育てて……ノイローゼ一歩手前だった で、一時的に預かったんだ そしたら王堂との仲も距離を持つ事で良くなかった 宮本も子育てと仕事を両立出来る様になった そしたら帰るの嫌だって……言い出して…… 久世と言われるのも嫌だって言い出したんです」 「……難しいな…子供は敏感だからな…… そっか、やっと流生が言ってた事が解ったぞ 保母が久世小次郎君と呼ぶんだそうだ で、毎回小次郎は泣いてるからな、流生がお願いしてきた」 「……康太君……ごめんね……」 「お前が謝らなくて良い」 「………俺……小次郎を悩ませてるんでしょうか?」 「保育園には野阪って頼んだんだろ? だったら野阪と言うべきだ! それを破って久世と言う保母がおかしい 俺が掛け合って話を付けといてやる」 「……康太君……」 「野阪、子育てってのはお前も成長させてくれる かぁちゃの顔してるな 良い傾向だ」 「小次郎は可愛い 篤史にも懐いてて、瀬尾の両親にも懐いてるので……」 康太は笑って小次郎の頭を撫でた 「んとに、野阪小次郎になれよ! オレが弁護士の手筈をしてやる 王堂と宮本にはオレから話をしてやる」 「………え……良いの?」 「小次郎、飯食いに行くか? 流生も大好きなお子様ランチ食いに行くかんな!」 康太が言うと流生は、キャッキャと笑った 「こじ いくじょ!」 「りゅーちゃ いっちょ!」 小次郎と流生は手を繋いではしゃいでいた 野阪は康太と榊原と共に編集部を後にした 「野阪先生、小次郎ちゃんと一緒ですか?」 「そう、今日は連れて来たんだ」 野阪は歩けば話し掛けられた にぱっと笑う顔は、小次郎と野阪は似てた 一緒に暮らしてると似るのか? はたから見たら親子に見えた 榊原の運転する車に乗せて貰ってファミレスへと向かう 流生と小次郎は手を繋いでいた 食事をして野阪と小次郎をマンションへと送り、家へ帰る 流生は嬉しそうだった 康太は「大切な友達か?」と流生に問い掛けた 流生は「あい!」と答えた 「大切な友達なら全力で守り通せ そしたらお前のために友達も全力で助けてくれる そうして協力して生きてくれる大切な友達を見つけろ」 「あい!りゅーちゃ こじらいじ!」 「そっか!」 兄弟以外の大切な友達だった その友達の為に流生は兄弟の代表として必死に動いた そんな息子が誇らしかった 自分の精一杯で友を助けれる息子の成長が嬉しくもあり…… 悲しい…… 「5人兄弟にとって……初めての友達だな…」 康太は呟いた 榊原はニコッと笑って 「友達の為に動ける我が子が誇らしかったです 我が子にとったら兄弟以外で出来た初めての友達ですね」 「野阪が育ててたなんてな……」 刹那いまでに…… 自分を押し殺して生きて来た野阪が…… 康太は嬉しかった 5人兄弟に初めて出来た友達だった 野阪小次郎 この先も共に在る存在だと、康太は果てを視ていた

ともだちにシェアしよう!