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第163話 幼稚舎 面接

この日康太はスーツを着て緊張した面持ちでソファーに座っていた 横には榊原が座っていた この日、康太と榊原は幼稚舎の入園前の面接に来ていた 子ども達も大人しくソファーに座っていた 流生は「……ちんちょぉーちてる」と呟いた 翔も「……かけゆも……はきちょう…」と弱音を吐いた 音弥は「おとたん……ちびりちょう…」と呟いた 康太は音弥を小脇に抱き上げるとトイレに走った 太陽は「……かえりちゃい…」と言った 榊原は……帰れませんよ……と心の中で呟いた 大空は「ぽんぽん……いちゃい…」と訴えた 榊原は「大空、お薬飲みますか?」と問い掛けた 大空は首をふった トイレから帰ってきた康太が疲れた顔してソファーに座った 「どうしました?」 「………危なかった……チビったら……面接パアじゃねぇかよ…」とボヤいた 榊原は康太に 「……大空、お腹痛いそうです 翔は吐きそうです……」 「………頼む……面接してくれ……」 康太も緊張しているのだ 何たって……母親は男 父親は内縁で男……なのだから…… しかも……父親と呼ぶのは……戸籍が入っていない 戸籍が入っていたとしても男同士なんだけど…… 今は子ども達と榊原は他人にしかならない…… 苗字の違いは目立つか…… 康太は「……入籍するか?」と呟いた 榊原は「それでも良いですよ?」と言った 随分前から入籍の話は出ていた 内縁のままじゃ……子供と榊原との名前が違うから… 榊原は子ども達の父親でいたかった 「康太、頼みがあります」 「………あんだよ?」 「……僕を子ども達の父親にして下さい」 「………飛鳥井になるか?」 「僕が飛鳥井になれば……子供の父親だと名乗っても……飛鳥井ですからね違和感はありません…」 子ども達が飛鳥井で父親が榊原では……この先……父親だと主張しても……【他人】と見なされてしまう 子供のオペにも立ち会えない現状は……悲しすぎる… 面接が始まり、子供達と共に面談室へと入った 面接には神楽四季が入っていた そのために康太の家族だけ別の日に面接を入れ 面接官は神楽四季だけとなった 「康太、緊張しなくても大丈夫です 同席する者には席を外させました 親しか駄目と言う堅物を入れて……伊織を除外したくないのです……」 と四季は……面接が一人なのを……説明した 「それでは面接を始めます! 名前を呼ばれたら手を上げて下さい!」 四季はそう言うと子供の名前を呼んだ 子供達は手を上げて大きな声で返事した 幾つが質問をして、その日の面接は終わった 榊原はずっと……思い詰めた瞳をしていた 康太は夜、父親と母親と、榊原の両親にリビングに来て貰った 応接間ではなく、康太達の寝室の横のリビングに来て貰った 康太は清四朗と真矢に深々と頭を下げた 「伊織をオレの戸籍に入れたいので、そのお願い為に……お呼びしました……」 と単刀直入に告げた 「このままでは……伊織は子供達と他人のままだ 何か行事があっても……伊織は子ども達の事には関われない……」 康太が言うと清四朗が 「それは我々も危惧していました」と康太に告げた 真矢も「このままでは……伊織は子ども達に何かあった時にオペにも立ち会えませんよね? 音弥の面会で伊織は……弾かれましたよね? あれば見ていて……可哀想でした」と……言葉にした 榊原は思いの丈をぶちまけた 「……僕は…………子ども達の父親だと言っていても… 法律の壁に阻まれて……親だと言えれなくなります 救急で知らない病院に運ばれたとしたら? 確実……僕は弾かれます…… 僕は飛鳥井の一員になりたいのです 戸籍上……父親には無理だとしても…… 飛鳥井の一員として関わりたいのです……」 榊原はそう言い深々と頭を下げた 最初から……解ってる 康太も男なら…… 榊原も男だ 婚姻など出来ない 世間では許されないし……認められない 解ってる 解ってるけど…… このままでは何時か弾かれて…… 他人にしかなれない 榊原はそれが悲しくて……焦っていた 「………叔父でも……従兄弟でも……弾かれない関係になりたい……」 世間から……弾かれない関係…… 認められなくてもいい 近くで見守って育てて行きたいのだ 康太と二人で育てたいのだ それには今のままでは先が見えていた 玲香や清隆もその事は危惧していた 玲香も「我らも……伊織の事は常に考えておった」と初めて漏らした 清隆は「清四朗さんに飛鳥井を名乗って貰って、飛鳥井伊織になった伊織と康太と養子縁組する ……そうすれば飛鳥井から子ども達が外れる事もなく……戸籍の移動が出来る…… その後、清四朗さん達は飛鳥井から抜けて戸籍を元に戻して貰う事になるけど……どうでしょうか?」と清隆は清四朗に問い掛けた 清四朗は「…ずっと飛鳥井のままだと……駄目ですか?」と問い掛けた 「それだと……申し訳ない……」 清隆は無理させてしまう事に……言葉もなかった 清四朗は「聞いて下さい」と話をした 「少し前から真矢と話をしていました 私達は飛鳥井を名乗り、伊織は私達と一緒に飛鳥井の姓を名乗れば、養子縁組しても飛鳥井のまま…… 康太が年下だから……養子縁組するなら伊織の戸籍に入れねばならない…… 子ども達は明日の飛鳥井を担う使命がある以上は…… 伊織の姓を変えるしかない…そう想ってました 亡き源右衛門は私を実子と認める書類を渡してくれてます…… それを提出して飛鳥井に姓を変える 榊原は笙が繋げて逝きます  私達は……父の名を継いで……逝きたいのです」 想いの総てを語った 清隆と玲香は深々と頭を下げた 「本当に……清四朗さん達には辛い選択ばかり……させる……」 玲香は真矢を抱き締めて言った 「姉さん、私は名実共に貴方の妹になりたい…」 と真矢も玲香に告げた 「……真矢……お主は既に我の妹じゃ……」 玲香は泣いていた 清隆は榊原に 「婿養子にさせてしまいますが…… 君に不自由な思いはさせません!」と告げた 榊原は泣いていた 康太は榊原を抱き締めた 「………僕は……あの子達の父として生きています それは死ぬまで変わりません 僕は我が子を愛しています…… でも僕も康太も男です……誰にも許されないのは解っています…… だけど……親として……生きたかったのです 名実共に……関わりのない存在だと切られたくはなかったのです……」 清四朗は天宮東青に源右衛門から託された書類を渡した 天宮はその書類に目を通した 「十分、飛鳥井を名乗れる書類が揃ってます まずは清四朗と真矢さんを飛鳥井にして お子さんの伊織さんを親の苗字を名乗る手続きを致します! その後で伊織さんと康太との養子縁組を致します 戸籍上、康太と伊織さんは親子となり お子さんは康太の子供と言う事で“孫”となりますが、親族なのに代わりはありません!良いですか?」 清四朗はホッと息を吐き出した 真矢も安堵の顔をした 榊原は……ずっと泣いて……泣き疲れて眠りに落ちた 康太は榊原を抱き締めていた 清隆が榊原を抱き上げると、康太は寝室のドアを開けた ベッドに寝かせて、清隆は康太の頭を撫でた 「何も心配しなくて良い……」 父の愛だった 「父ちゃん……」 「お前も伊織も……飛鳥井には大切な家族だ 子ども達も……お前達が親となるように手段は総て遣う だから不安がらなくてもいい……」 「ありがとう父ちゃん……」 「………音弥の入院の時…… 祖父母と親は良くて……叔父や叔母は面会出来ませんでしたね…… あの時の伊織が不憫で……考えていたのです これで伊織も弾かれる事なく……付き添えます」 「……ありがとう……」 清隆は康太の頭を撫でると、寝室のドアを閉めた 康太は服を脱ぐと榊原の隣へと寝そべった 清隆達は場所を変えて飲むことにした 飛鳥井の夜更けは…… 優しく更けていった 真矢は「泣きながら寝ちゃうなんて……見た事もなかったわ……」と笑った 玲香は「伊織は案外涙もろいのを我は知っておる」と笑った 瑛太が残業から還ってくると、応接間に榊原の家族がいて顔を出した 「ご機嫌ですね、何か良い事ありましたか?」 瑛太が問い掛ける程のご機嫌だった 清四朗は「飛鳥井になろうと想っているのです そしたら伊織も飛鳥井を名乗り、康太と養子縁組させたいと想っています…」とご機嫌の内容を話した 瑛太は驚いて見開いた瞳を……喜びの色に変えて 「それは……喜んだでしょう……」と笑った 皆が望んだ結果になる 飛鳥井はまた一歩 踏み出した 強固な家族が名実共に家族になった 総ては飛鳥井康太の幸せを願う 我が弟……の幸せを願う 我が子の……幸せを願う 瑛太は着替えに行く事もなく宴会になだれ込み飲みまくった 「飛鳥井がやっとスタートラインに立った…… これからの飛鳥井が楽しみです 何があっても、どんな事があっても…… 私は飛鳥井の会社と家を守ります 康太の子供達に渡すまで……私は負けません!」 グラスを高く掲げ、乾杯する その日 飛鳥井の第一歩は踏み出された      END

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