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第162話 選択

最近……一生が変だ 何が変かというと…… 「力哉、愛してる」 昔はそんな事を言う男じゃなかった それは一生なりの歩み寄りだと…… 力哉は想う 想うんだけど…… 一生の一番は飛鳥井康太だから…… 素直になれない それが嫌だと言う訳じゃない 力哉にとっても康太は一番なのだから…… 何が嫌かと言うと 榊原伊織ばりに愛を囁かれるのは慣れてないのだ 顔を見れば愛してる攻撃 そんなに愛してるを言ってると…… 尽きちゃうのが怖い 「ねぇ一生」 だから力哉は一生の真意を聞くことにした 「何だ?」 「僕と康太が川で溺れています 一生はどっちを助ける?」 一生は力哉の言葉を反復した 「力哉と康太が川で溺れるとしたら、どっちを助けるかって事?」 「そう。君はどっちを助ける?」 選択を問う 「力哉、お前を助ける!」 一生は力哉を射抜いて、そう答えた 「何で?康太を助けないの? 康太が溺れてるんだよ?」 「康太が溺れてるなら旦那が飛び込んで助けるやろが! そしたら俺はお前を助けに行くに決まってるやん」 ………そう来たか だよね? 康太が溺れてるなら伊織が助けない訳はないよね 「ならさ、伊織がその場にいなかったら? 誰もいなくて、僕と康太が川で溺れてたら…… 一生、君はどっちを助ける」 一生は想像してみてみる そして真剣な瞳を一生に向けた 「………そしたら俺は康太を助ける 康太を岸まで引き上げる事を優先にする その後でお前を助ける 間に合わなかったら……俺も……後を追うから…… それで許してくれ…… お前を一番に助けると言えなくてごめん…… 俺は………康太を最優先にする もし……お前と康太が刺されそうになったら…… 俺は康太の盾になる それでお前が刺されて死んだとしたら…… 後を追うから…… 絶対にお前のいない世界で生きないから…… 許してくれ…… 俺にとっては……それは辛い選択なんだ お前と共に逝くと言う事は……… 康太を護れねぇと言う事だ 魔界に還ったなら……人の世に関与は無用 見てねぇといけねぇ……手出しも出来ずに見てるのは……俺にとっては拷問だ…… それでも俺は康太を助けた後にお前と逝くから……許してくれ……」 一生が震えていた 力哉は一生を抱き締めた 予想以上の答えを貰って力哉は嬉しかった 力哉を康太よりも優先に助けると言われたらしい…… それは一生の真意ではないと想う だから選択させた はぐらかしたり、適当に答えるなら…… 一生との付き合いは考えなきゃと想っていた 愛されているのだ ちゃんと愛されてる 「一生……ごめんね」 「あんでお前が謝るんだよ」 「最近の一生、愛してる言い過ぎ…… 昔の一生は恥ずかしくて言ってくれなかったのに…… 最近の一生は愛してる言い過ぎだから…… 本心なのか……問いたくなったんだ 愛してるって言い過ぎてると尽きちゃいそうで……」 力哉も震えていた 怖かったのだ 幸せすぎて…… 怖かったのだ こんなに愛されて 一生なしじゃ生きられなくなった今…… 一生をなくしたら……生きていけない そう想うと怖くなった 一生に愛してると言われるたびに…… 本気なのか見えなくなってしまった…… 「………俺は……器用じゃないからな…… 誰と付き合っても長続きしないんだ 釣った魚に餌をやらないってのもあるからな…… 少し旦那の真似した」 「………何で伊織の真似なんて……」 「お前は信じるか信じないか解らないけど…… あの二人は……一万年もあぁやって寄り添って生きてるんだ 何万年経ったって……あの二人は新婚だ 愛してると言葉にして伝えてる 伝えねぇと後悔するぞって康太にも言われたからな… だから……あの熱烈なカップルを少しだけお手本にした 未来永劫……と言う言葉は嘘じゃねぇんだ あの二人は人の世を終えても…… ずっとずっと寄り添って生きているんだ きっと魔界の生を終えても冥府で恋人として生きていくんだ この先の長い時を……生きていくんだ…… 羨ましい…… 俺も……そんなに愛したい存在を見付けたからな…… 満たしてやりたいと想うんだ…… 愛してるって言葉は尽きたりしねぇよ…… そりゃ……離婚する奴はいるさ 俺らも別れる時が来るかも知れない 未来のことは解らない だけど……その日が来ても俺は力哉を愛してるって言いたい 愛して後悔なんかないって言いたい 別れねぇつもりでいるけど…… どうやら俺は愛想尽かされるタイプらしいからな…… 望んじゃいけねぇと想ってるんだ」 一生の告白に力哉は堪らなくなった 力哉は一生を抱き締めた 力哉は泣きながら……ごめん……ごめん……と謝った 一生は笑って力哉を抱き締めた 「何で泣くんだよ?」 「変な質問したから……」 「力哉が聞きたいと想う事は何でも聞けよ 答えられる事なら答える 答えられねぇ事は……康太に内緒と言われてることくらいだ! 内緒と言われたら言えねぇからな」 「不安だったった…… 一生も僕といれば解るだろ? 僕は誰かを愛したり、誰かに興味を持つのは初めてだから……少し変だろうと想う……」 「おめぇは変じゃねぇよ 俺と一緒に生きてくれ……」 「………うん………うん……」 力哉は一生の胸に顔を埋めた そして甘える 昔は誰にかに甘えるという事が下手くそで出来なかった 一生といると不思議だ 気負うことなく甘えられるんだから…… 「一生って若いのに物凄く頼りになる時あるよね」 「………俺は……記憶そのままで人の世に堕ちたからな…… 年で言うなら……何十万年と生きてる訳だからな……」 「そっか……なら僕は年は気にしなくても良いんだね」 力哉はそう言い笑った 「そうそう……気にするな」 二人は何時までも抱き合っていた 互いを抱き締めて、存在を確認するみたいに離れなかった 一生の選択はまさに力哉の望んでいる返答だった 誤魔化されなくて良かった…… 力哉は幸せを噛み締めた 康太が聞いていたなら 「オレ、泳げるし! 桜林の河童と言われた男だぜ? 溺れるなんて笑わせる!」 と言うだろう もし榊原伊織が聞いていたなら 「僕が康太を溺れさせる筈などありません! 失礼な!何の根拠でそんな事を言うんですか?」 と理詰めで責められる事となる 実際、ソファーで寛いでいる時に康太は 「なぁ、オレが溺れてたらどうするよ?」と問い掛けた 「助けます!」 榊原は即答した 「ならさ、他の奴も溺れてたらどうするよ?」 「僕は君を助けます でも後味が悪いので、青龍になって全員助けますとも! その後で霧を吐いて記憶を操作すれば造作もない事ですからね!」 榊原は笑い飛ばした 「だよな?それこそオレの愛する青龍だ!」 「でしょ?もっと言って下さい!」 「愛してる青龍」 「僕も愛してます奥さん!」 イチャイチャ始まる 一生は苦笑した すべてお見通しだったのだろう 慎一がやって来て、テーブルの上にデザートを置くと 康太は榊原に食べさせて貰った あ~んと口を開き食べせて貰う様は…… どこから見ても新婚だった 「青龍愛してる」 「僕も愛してますよ炎帝」 「未来永劫……共に…」 「ええ。絶対に離れません!」 抱き合うカップルは絶対だった 一生は二人を見ていた 力哉も二人を見ていた そして見詰めあう 力哉は幸せそうに笑った

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