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男心と冬の空
西はじめさんが企画されたBLカルタ。私は「と」を担当したのですが、それに合わせてショートショートを書いてみました。
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「うっわ。おまえらできてんの?」
授業後。英語の授業が同じ山田にそんなことを言われて、俺は思わず香川を見た。山田あ。おまえはなんでそういう空気読めないこと言うんだよ。俺がどれだけ、こいつにそんな雰囲気を悟らせないように努力してると思ってんの。
「うるせえな」
そう言って席を立とうとすると、香川が俺の手首をつかんだ。
「君は悪くないだろ」
うっわ。香川、おまえがそういうことするからだろ。頑張って隠してるけど、俺だって好きなやつからいきなり手をつかまれたら顔くらい熱くなるわ。
「谷口くんの性的志向がそうだからって、誰でもいいわけじゃないだろう。誰彼構わずそういうネタで盛り上がるのは感心しない」
香川は黒縁眼鏡を裏切らない真面目な性格で、こういうときにはっきりものを言うとこがあるんだよな。まあそこが好きだなって思うけど。
俺は仕方なく席に戻って、香川の手を外した。ああ、触られたとこがドキドキするだろ。もうちょっと俺に気を遣え。
「いやーだって香川、女友達とだってそういう話すんだろ。怖い顔するなよ」
「僕は友達の誰にもそんな冗談は言わないよ。他人の恋愛関係に外野が口を出すのは野暮だしみっともないだろう」
はっきり言う香川はなんだかとても凛々しく見えた。うーん、そういうとこホントにいいよな。
だけど、俺がいるとなんか険悪な雰囲気を倍増させそう。俺は空気読む民だからな。
「今日バイトあるから帰るな」
俺はまだ言い争ってる香川を尻目に、そう言って席を立った。
立ち上がると香川のつむじが見える。そこから一本だけ毛がはねてて、あー、かわいいな。
思わず手を伸ばしてしまってから、俺は山田の視線を感じた。ほらあ、おまえたちやっぱり付き合ってるんだろ、って視線だ。だから、付き合ってはないって。
「んー寝癖、押しても直んねえな」
俺は言い訳がましくそう言って、今度こそそこを離れた。やばい、うっかりボロを出すところだった。
外に出ると、もうすっかり冬の気配だ。さっむい。
「谷口くん」
しばらく行くと、小走りで香川が追いかけてきた。俺が離れて、すぐ荷物をまとめて追ってきたんだろう。耳が赤い。寒いのか。
「何?」
「谷口くんは気にすることないからな! さっき気を遣って離れただろう? 本当は山田が悪いのに」
わざわざ気を遣って俺にそれを言いにきたのか。香川はホント、真面目なやつだ。
「あんなことくらいどこにでもあるし、いちいち気にするなよ」
「だって……、谷口くんが傷ついてるんじゃないかと思って」
はい? あー、おまえかわいいか! かわいいだな!
「心配してくれてサンキューな」
「だって、友達だろ?」
香川は眩しい笑顔でそう言った。ですよねー。オトモダチ、デスヨネ。
別にね、こいつもこっそり俺のこと好きとか、そんな期待はまったくしてませんけども!
俺は片手を伸ばして香川の髪をぐしゃぐしゃにした。ああ、このまま、その額にキスを落とせたらいいのに。
「何?」
「……おまえの寝癖、直してやろうと思ったけど、木は森に隠せみたいになった……」
「ええ?」
香川は慌てて頭に手をやった。
「あ、僕はJRだから、ここで! また明日!」
正門に到着して、香川はまた笑う。髪を撫でつけながら俺を見るので、俺も笑って手を振った。
「さっむ」
俺は香川の姿が見えなくなるのを確認して、手をポケットにしまいこむ。隣にあいつがいないなら、手を使う用事もないからな。
「友達、ねえ……」
まあいいけど。友達じゃないよりは。
なんだかなあ。
終
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