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ショートカットは使えない
Twitterの、@BL_ONEhour #創作BLワンライ・ワンドロ!をやってみました。一時間でお題に合わせて書く企画です。時間は昼休みと夜で細切れになっちゃってよくわからないけど。お題は「近道」。
〜〜〜〜
「谷口くん、こまち屋行くの」
大学を出ようとしたところで英語のクラスが一緒の香川に声をかけられた。こまち屋は大学から一番近いデパートだ。
「こっちの方が近道だよ」
ちっこい体ににこにこ笑顔で香川が言った。今日も寝癖で髪が一本立っている。あーかわいい。触りたい。
「僕も行く」
俺の隣に並んで香川が歩く。
あー、胸がばくばくする。
その頭の中に顔を埋めて、後ろからぎゅっと抱きしめたら気持ちいいだろうな。でもドキドキしすぎて吐きそう。
「香川、おまえ何買うの?」
香川のことを好きだって気づいたのはいつだったかな。去年の夏にはもう自覚してた気がする。
あーあ。
俺が知りたいのはこまち屋への近道じゃなくて、おまえとのこの距離を縮める近道なんだけどな。知ってんのはおまえだけだから、もったいぶらずに教えてほしい。
むしろこまち屋に行くのは、時間がかかった方が嬉しいんだけど。
「谷口くんはホワイトデーのお返し探してるんだろ」
あー、聞いてた? ホントはわざと聞かせたんだけどな。ちょっとは焦ってくれないかなって。
「僕も探さなきゃ」
まあ、焦ってないな! ってかおまえは誰にもらった。焦ってるのは俺か!
「誰からもらったの」
「大木さんと姉ちゃん」
マジで? 大木さんは香川の入ってる陸上部のマネージャーだ。
そういえば仲良いよな? 同じ部活だからだと思ってたけど! おおきー! ちっこくて男らしい、香川の魅力におまえも気づいてるのかー!
「大木さん、って、付き合うの? あ、言いたくないならいいけど」
香川はあんまり恋愛トークをしたがらない。引きぎみに俺が聞くと、香川は一瞬俺を見て爆笑した。
「部員みんなにくれたやつだよ」
よっしゃああ! さらば大木! おまえは同志じゃないな!
俺は急にテンションが上がったけれど、一応興味なさげに「ふーん」とだけ答えておいた。
特に甘いものが好きなわけじゃないけど、デパートでキラキラしたディスプレイにお菓子が並んでいるのを見ると、それはそれでいい感じだ。
ぼんやりと、そのうちのひとつを香川にあげる自分を想像する。すっげえおしゃれなやつでも高いやつでも、こいつはきっとふっつーにありがとうって言って真面目な顔して食うな。なんも考えないで、おいしかったとか真面目に言うだろうな。
「ホワイトデーってさあ、お返し感が強いよな。バレンタインは送る相手が選べるけど」
俺は隣で真剣にマカロンとトリュフを見比べている香川に言った。
「昔、女の子から告白できない時代にお菓子メーカーが思いついたマーケティングだろ。今の時代、イベントにかこつけなくても好きなら、いつでも告白すればいいと思うけど。男でも女でも」
ディスプレイから目を離さないでそう言う香川は、相変わらず男らしい。そういうとこ、俺はきゅんとしちゃうな。俺にはそういう思い切りの良さがないからさ。
「でもそういうさ、きっかけって欲しくね? 好きな人には自信なくなるし……」
思ったよりも自信なさげな声になってしまった。香川は顔を上げると、じっと物言いたげに俺を見る。
「勇気はいるけど、好きなら好きって言うのが一番早いよ?」
ああ、それが一番の近道なのは俺もわかってる。でもそれは友達と気まずいへのショートカットかもしれないんだぜ。
っていうか、その男らしい香川が俺になんも言ってこない時点で、なあ。だいぶ期待薄だろ。
だから俺は、近道が見えても回り道しかできない。勇気なんて、どこにもないんだ。
「なあ香川、この中にあるものだったらもらって何が一番嬉しい? なんか一個、おまえにも買ってやるよ……」
終
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