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第一章・19

 こうなると、がぜん郁実自身にも興味が湧く。  いろいろと彼の背景を聞き出そうと、颯真はさっそくお茶を淹れることにした。 「僕が、この豆でコーヒー淹れますよ」 「本当? ありがとう」  郁実はマスターの持たせてくれたコーヒー豆を、さっそくミルで引き始めた。 「郁実くん、お母さんは? いつも見ないけど、外に務めに出てるの?」 「父と母は離婚しました。母は今、別の家庭を持ってます」  これはいきなりマズいことを訊いたかな、と颯真は反省した。 「え~、趣味とかある? 映画観たり、する?」 「僕、世間に疎くて。映画とかテレビとかゲームとかマンガとか、ほとんど知らないんです」 「そ、そう。あ、でもね。俺、去年日本アカデミー賞で、主演男優賞とったよ」 「ホントですか? すごいですね!」 「観てくれた?」 「あ、いえ……」

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