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第一章・21

「じゃ、じゃあ、郁実くんは、どんな音楽を聴くのかなぁ?」  笑顔が引き攣るのが、自分でもわかる。  俺の知ってる歌なら、聴かせてやるぜ! 生歌を! 「ジャズ、とかなら、よく聴きます」  ジャズ!  なんて渋い高校生なんだ! 「父さんが好きなので。喫茶店でも、BGMでずっと流してますし」 「ジャズかぁ。俺、あんまり詳しくないな」 「僕も、曲名とかは解らずに聴いてるんですよ」  そこでようやく、郁実は笑顔になった。  それは自然な、本当にいい笑顔だった。  ああ、郁実くんは、飾らずに俺に向かい合ってくれている。  俺は、まだまだだ。  彼に素顔を見せるはずが、まだ自分の映画だの曲だのの話をしている。

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