100 / 142

第六章・19

「愛、か」  胸の中ですやすや眠る郁実の髪をゆったりと撫でながら、颯真は思った。 『郁実くん、俺が欲しいのは恩返しじゃないよ。君の、愛が欲しい』  以前、こんなセリフを彼に贈ったっけ。 「嬉しいな。郁実、嬉しいよ」  彼の方から、愛してる、と言ってもらったのは初めてだ。  セックスの最中に、愛してる、と言われたのも初めての経験だけど。  愛してるから、セックスをする。  そんな当たり前のことを、ずっと見失っていた。 「郁実、愛してるよ」  無性に照れて、それでもしっかり声に出して、颯真はつぶやいた。

ともだちにシェアしよう!