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第九章・14
「今日お店が終わったら、一緒に出掛けたいんだけど、いい?」
「いいですよ」
郁実は、今夜は外で食事かな、程度に考えたが、颯真は蘭の鉢を置くと改まって手を取った。
「あの、ね。二人で選びたいものがあるんだ」
「?」
「婚約指輪。結婚しよう、郁実」
「……!?」
「お父さんの喪が明けたら、式を挙げよう」
『五条さん。父親の前で息子を口説くの、やめてくださいよ』
そんなマスターの声が、聞こえたような気がする。
でもね、お父さん。
これで最後ですから。
郁実を口説くのも。
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