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第13話 近衛の少将は東宮に愛される
貴族同士の婚姻に於いて、生身の肌を見せることはほとんどない。
男は俯せた女の衣を後ろからそっと捲り上げ、前を寛げただけで服を脱がずに交わる。それが正式な作法だ。
だが緋立は一糸纏わぬ姿にされて、燈台の灯りの下で白い裸体を曝け出すよう命じられた。
「……あぁ……嫌……です、このような、恥ずかしい姿……ぁ、ひっ……ッ」
緋立は褥の上に仰臥し、開いた両脚の足首を自らの手で握らされていた。
顔も胸元も下腹の男の部分も、その奥にある足の間の窄まりまでも、すべてが東宮の視界に収められている。恥ずかしさを訴えても、東宮は足を放すことを許してくれなかった。
足の間には、東宮の手が入り込んでいる。たっぷりと練り油を取った指が三本、受け入れることを覚えた緋立の肉壺に深々と埋まり、中をぐるりと掻き回していた。
「駄目だ。二度と私に隠し事は許さぬ」
「ひぃんッ!…………あっ、あっ、そこは……ッ! そこ、だめぇッ……!」
指で弱い所を抉られて、堪らず鼻にかかった悲鳴が上がる。
中納言に悦びを教え込まれた肉壺は、浅ましいほど貪欲に変わった。中を弄られるとすぐに下腹が熱くなる。嘘を吐けぬ場所が、硬く勃ちあがって欲望をあらわにしてしまうのだ。
身を捩って隠したいのに、不安定な姿勢のせいでどうにもならない。それどころか指を締め付け、もっと深い快楽を得ようと無意識のうちに腰が揺れそうになる。
そんな卑しい姿を東宮には見られたくないのに、この姿勢では何一つ隠すことができない。
ぷっくりと膨らんで抓まれるのを待つ二つの乳も、痛いほど反り返って下腹に蜜を落としそうな屹立も、弱みを圧されるたびにギュッと縮こまる足の指も――。
すっかり淫らになりましたと白状させられているようなものだった。
「……あ、ああ、あんッ!……んッ、んッ、んんぅ――ッ! い……やぁ……ッ」
背筋を駆け上る快感を隠すこともできず、緋立は白い内腿をブルブルと震わせる。
指で嬲られるだけで、もう昇りつめそうだ。そんないやらしい姿を東宮に見せるわけにはいかない。
荒い息を吐き、気を逸らして何とか持ちこたえようとするのに、うねりのような快楽の波は次から次へと襲ってくる。両手に握った足首に爪を立てても、波は少しも遠ざかってくれない。
頭を振って快感を振り払おうとする緋立に、東宮は怒りの籠った声で囁いた。
「何者が其方に法悦を教えたかは敢えて問うまい。だが、その相手に見せた姿を私に隠すことはならぬ」
他の男を通わせていたことに、やはり東宮は気付いていたのだ。緋立の反応を見て、その疑いは確信に変わったに違いない。
トロトロと蜜を零し始めた屹立の先端を、残酷な指が優しく撫でる。一気に吐精へと駆け上りかければ、窄まりを指で拡げられて、うつつへと引き戻される。果てたいのに果てられない。
――いや、快楽を極めてはならないのだ。これ以上淫らがましい有様を東宮に知られるわけにはいかない。
「……ひぃ、あひぃぃッ…………どうか、おゆるし、を……ッ」
喘ぎの合間に必死で許しを請うしかない緋立は、哀訴の声を絞り出す。
だが嫉妬を隠さぬ東宮は厳しく断じた。
「いいや、許せぬ」
中を苛む指が弱みを責め立て、緋立の肉体を女へと変えていく。男の怒張を尻に呑んで噎び泣く、多情で淫らな女の肉体へと。
張りつめて反っていた緋立の砲身が、ついに腹の上に力なく横たわった。その先端から粗相したような蜜が溢れ出る。指の動きに合わせて尻が揺れるのを止められない。気持ちいい。気持ちよくて、もう何も考えられない。我慢ができない。
東宮に抱きしめられたい。逞しく猛った御印で貫かれて、体の奥に精を浴びたい――。
「我が目に見せよ、緋立! 其方の本当の姿を!」
揃えた指が深々と押し込まれた。
裂けてしまいそうな痛みと、力づくで犯される怖ろしさ。
体内を進んでくる巨大な異物、畏れながらも恋い慕った声、破瓜されたときの悦びと恥辱。
――それらのものが一体になって、緋立の脳髄を白く焼き尽くした。
「……ぁああああ――――――ッ……ッ!」
瞼の裏に閃光が弾ける。堪えに堪えた末の快楽はあまりにも深い。
絶え絶えの声を迸らせて、緋立は逃れられぬ法悦の頂へと身を躍らせた。
快楽の激しさに焼き切れたように、緋立の意識は闇に包まれた。
浮世のしがらみから解き放たれ、産湯に包まれているかのような心地よさだ。
すっかり安堵してゆらりゆらりと暗闇の中を揺蕩っていると、雄鹿の皮を身につけた人影が目の前に現れた。
『――麗しき九重の姫よ。夫を得ても、祭日の奉納を忘るるなかれ。さすれば、栄華と幸はそなたのもの――』
頭の奥に響いた厳かな声に、緋立は茫としたまま『貴方は誰だ』と問いかけようとした。
だが次の瞬間――。
闇は白く弾け、緋立の意識はうつつへと叩き戻された。
「……あ、あ、あっ……あ、あん、ぁんん――ッ!……」
ひっきりなしに放たれているのは己の声だった。
開いた両脚の間には東宮の身体が入り込み、太く猛った御印が身を穿っている。いつの間にか元結も解かれ、汗ばんだ首筋に髪が乱れかかっていた。
「……緋立……其方は私のものだ……!」
「とうぐう……さまぁ、ああぁッ!……あああぁッ……!」
東宮が深く圧し掛かるたびに、指の先まで痺れるような恍惚が襲いくる。
気をやり続けて腹が蕩け、頭がおかしくなりそうだ。馬鹿のように叫ぶしかできない。
強すぎる快楽から逃れたいと願うのに、緋立の両脚は覆い被さる腰に絡まって放さず、小振りな尻はあられもない動きで悦楽を貪っていた。
「緋立……もう二度と放さぬ……其方は私のもの……!」
白い肌のあちこちに残される房事の痕跡を塗り潰そうと、東宮が身を屈めて肌を吸う。
胸元に幾つもの紅い花弁を散らし、首筋には咬み痕を刻み付けて、東宮はこの肉体の所有者が誰であるかを緋立に思い知らせようとする。
いや、思い知らされるまでもなかった。
初めから、緋立は東宮のものだった。それが証拠に、深く抱かれて気が遠くなりそうなほど心地よいではないか。
「……ひぁああああ……ぁひぃいッ!……ぃひぃいいぃ……ッ!」
昇りつめて、さらにまた昇りつめて――。
声が嗄れても叫び続けずにはいられない。
下腹が波打ち、薄くなった蜜が腹の上にドッと溢れた。もう何度イッたかわからない。吐精を伴わぬ絶頂は終わりも果てもなく緋立を狂わせる。
「逝くぅうう――――ッ、い、いッ、逝ぐぅッ、ああぁッ!……もう、もうぅう――ッ!……」
一向に収まる気配もない続けざまの法悦に、緋立は泣き咽んだ。ひっきりなしに追い上げられて神経が焼き切れてしまいそうだ。
無意識のうちにずり上がって逃げようとする体を引き戻され、奥を嬲られてまた昇りつめる。打ちのめされたように緋立は啜り泣いた。
東宮に抱かれてこれほどまでに感じる己は、器は男の形をしていながら、本質は女なのだ。
胎の奥に牡を呑み込み、獣のようにまぐわう姿こそが、真の己の姿なのだ。
『――九重の姫よ、歓喜の舞を我に捧げよ――』
頭の奥に、吉野の山の神の声が鳴り響く。
ガクガクとそれに頷いた緋立は、終焉に向けて激しさを増した東宮の腰を、両脚で強く引き寄せた――。
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