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築99年の貸家に住んで、普段は着物で暮らしていて、純文学の作家だなんて。
本当に、作り話みたいなひとだなと思う。
それから、書生をとって、その子供と好き合っている。
「変なひと」
「何がだね」
先生が作った肉じゃがをつつきながら答えた。
「先生がです。書生なんて要らないじゃないですか。ごはんはおいしいし、家は大事に手入れされているし、掃除も行き届いてて、先生のお世話なんてすることない」
「そうだね。高校生に身の回りの世話をされるほど、だらしなくはないつもりだけど」
すまし顔でもぐもぐと食べる先生に一瞬見惚れてしまって、何を言おうとしたか忘れた。
ぶるぶると頭を振る。
「先生はどうして俺に書き方を教えようと思ってくれたんですか? 手出してやろうとかじゃなかったんですよね?」
「色欲だけで書生をとろうなんて思うほど困ってもいないね」
グッと言葉を飲み込む。そりゃ、モテるだろうし。そうだけど。
不審の目でじとっと見据えると、先生は箸をくわえたまま少し止まったあと、みそ汁をすすった――笑うなら笑えばいいのに。
「分かった、やっぱり愛美さんの言う通り、先生はお世話焼きなんだ。本当は書生なんか要らないけど、作家になりたい俺のお世話を焼きたくて、それっぽいこと言っただけじゃないですか?」
食卓に身を乗り出してみたら、先生はじーっと俺の目を見たあと、はあっとため息をついた。
「何を勘違いしているのか知らないけど、最初に言ったでしょう。取材を手伝ってくれって。それが君の仕事」
「でもゴールデンウィークのときは、俺の出番ゼロだった。すぐ帰っちゃうし」
「あれはあのひとの話がつまらなかっただけだよ」
先生は箸を置いて、俺の頬をむにむにとつまんだ。
「じゃあ次は、青少年の意見が必要なものを考えておくから、それで書生の務めをきっちり果たしてくだされ」
「はーい」
満足いく答えが得られたので、機嫌よく食事に戻った。
先生も座布団の上に座り直して、箸を取る。そして、ぼそぼそとつぶやくように言った。
「君は見ていて飽きないからね。そばに居るだけでいい」
「え?」
「ネタの宝庫という意味だよ」
照れてしまって、じゃがいもを取り落とした。
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