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1 いつもの日常/理玖の場合

 行為の最中、やたらと淫語を連発してくる奴って一体どんな心境なのだろう……  自分は他と比べたら淡白な方なのかもしれない。俺を乱暴に組み敷き息も荒く貪るように腰を揺らす男は、興奮したように卑猥な言葉を浴びせてくる。俺は激しく抉る律動に自ら快感を拾えるよう体を捩り淫に声をあげてみせ、わざとらしく妖艶に振舞う。男の独りよがりな行為に半ば呆れながら、なんとか快感を拾っている俺は一体何をやっているのだろう。男は更に嬉しそうに腰を揺らし、耳元で愛を囁き俺を求めた。一方的に求められる快楽に、冷めた気持ちで演技をする。こんなつもりじゃなかったのにな、と毎回同じことを考えながら、気持ちの良いフリをして自分自身も騙していた。 「初めてじゃないみたいに俺たち体の相性、良かったんじゃない?」 「……そうだね。また機会があれば是非」  乱れたベッドの上で満足気に微睡みながら、「君は特別だよ」と男は囁く。その腕から逃れるように立ち上がり、俺は視線を逸らして感情なく返事をした。社交辞令の言葉をお互い吐き出し、小さなプライドを守っているかのようなお馴染みのやりとりはもう慣れたものだった。俺は相手に分からないように錠剤を口に放り、まるでラムネ菓子を頬張るようにバリバリと噛み砕き飲み込む。そして最後に愛おしそうな顔をしてキスを交わし「またね」と言ってホテルを出た。  先程までの埃っぽく淀んだ室内と違い、冷たく澄んだ空気がそっと頬をかすめ火照った体に心地よかった。笑顔で男と別れた俺は一人街を歩く。段々と熱が逃げる体と心に、ポケットからスマートフォンを取り出しぼんやりと画面を眺めた。  さっきの奴は顔を合わせた瞬間から、まるで恋人同士のように体を寄せ俺のことを優しくエスコートしてくれた。食事をしている間も俺に熱い視線を投げかけながら、飽きさせまいとして沢山の話題を振ってくれた。  清潔感のある小綺麗な顔立ち。性格も控え目で、決してひけらかすようなことはしない。恐らくこの界隈ではモテるであろう気遣いや容姿を持っているこの男に口説かれていた間は、俺も満更でもなかったはず。それなのにやっぱり満たされることもなく、こうやって事が終われば冷静に次の相手を探している自分にうんざりした── 「いつでもいいよ。なんなら今からでもそっちに行けるよ」  適当に入ったカフェでコーヒーを啜りながら何となしに覗いたいつもの掲示板。そこで見たプロフィールから、適当に目星を付けて連絡を取り付けた。そこに載せていた写真が本物なら結構タイプだし会ってもいいかな……そう思って、先程の男のことなどもう忘れた俺は新たな出会いに期待をしながら待ち合わせの場所まで急いで歩く。週末の繁華街。終電まであと僅かなこの時間、帰宅を急ぐ人とこれから夜通し過ごす人々でまだ街は明るく賑わっていた。  基本的に俺は人が嫌いだ。でもこういった人混みは嫌いじゃない。各々が他人など気にせずに思い思いに存在している。誰も俺のことなど気に留めない。スマートフォン片手に周りを眺めながら、俺はこれから会う男の姿を探した。

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