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2 理玖と翔
「君が理玖 君?」
待ち合わせの時間ぴったりに、男から声をかけられた。
会う前に目印として服装や特徴を伝えていた。俺は白いボアのアウターに黒のスキニー、そしてサコッシュ。髪は黒髪で少し長め。サイトのプロフィールの写真から相手の容姿は確認できたけど、相手は俺の情報は何もない。簡単な説明だけどこれで十分。はっきり言って俺は容姿にも自信があったしすぐに相手の目に留まると思ったから。待ち合わせの場所もすぐに移動できるよう屋外を選び、駅の側の賑やかな場所にしていた。
「そうだけど……翔 さん?」
俺の目の前に現れた男、翔はプロフィールの写真と全く同じ人当たりの良さそうな好青年に見えた。
「何だよハズレか……」
「え? 今何て?」
「ん? 何が? えっと、どうする? どこ行こっか?」
周りの喧騒に掻き消されるほどの小さな声。だけど確かに聞こえた。聞き間違いなんかじゃない。「何が?」なんて誤魔化したけど、俺のことを見て翔は「ハズレ」だと言った。今まで沢山の男と会ってきたけど、殆どの相手が俺のことを褒めはするが蔑む事など一度だってなかった。思ってもみなかったひと言に、怒りで一瞬頭の中が真っ白になる。それでも対抗意識なのか敵対心なのか、俺は苛立ちを飲み込んで笑顔を作った。
時間も遅かったし、翔と会う前に他の男と食事も済ませていたから腹は減っていない。ハズレだと思った俺に、翔は一体どんな接し方をするのか様子を伺うことにした。
「翔さん飯は? 俺、済ませちゃってんだけどまだなら付き合うよ?」
何ならもう帰ったっていい。こんなに感じの悪い奴と一緒にいたって絶対面白くないのだから。面倒臭くなってきた俺は手元のスマートフォンに視線を落とした。
「うん……いいや。腹減ってないし理玖君行きたいところある?」
あくまでも決定権は俺に委ねる翔の姿勢に、やっぱり適当にあしらわれているのかと感じ不快感が込み上げる。見た目は良いのにこんなにも不愉快な気分にさせられるなんて、さっきのよく喋るエッチ残念男の方がよっぽど俺を楽しませてくれたと思い、どんどん気分も下がっていった。欲を出し、次を探すなんて事をせずに大人しく帰ればよかったと後悔しながら、自分の下唇を軽く摘むように触れながら上目遣いで翔を見つめた。
「……二人きりになれるところ、行きたいな」
俺は自分が良く見られる態度、表情を知っている。唇に触れるのは癖じゃなくわざとだ。こうする事で大抵の奴は俺のことを少なからず性的な目で見つめてくるようになる。こんな些細なことでも、結局は互いの淫情の発散が目的なのだから単純だ。「キスしてほしそうな顔してどうしたの?」なんて言いながら初対面だった男に町中で肩を抱かれキスをされたことだってあるんだ。少しは俺を楽しませてくれてもいいだろう? と言わんばかりに誘ってみると、意外にもあっさり翔は俺を見つめて「じゃあホテルだな」と呟いた。
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