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55 素直になる
どれくらい唇を重ねていたのだろう──
先程までの様々な感情はすっかりなくなり、俺の頭の中は翔でいっぱいになっていた。心臓が煩かった。翔がふと俺から離れるのがわかり、微かな寂しさに襲われた俺は「あっ」と声を漏らす。
「大丈夫だよ、どこにも行かない……」
言われた俺はハッとして手元を見る。無意識に翔の服の裾を掴んでいた。
「こんなに可愛いなんて思ってもみなかった。貴重なもん見られたのかな?」
「煩い……あっちに行け」
俺の指は翔の服の裾を掴んだまま。言葉とは裏腹に、これ以上翔と離れるのは嫌だった。
「こっち来んな、俺に触るな」
この期に及んでまだそんな減らず口が溢れてしまう。でももう翔は俺の言うことは聞かなかった。
「いやだ……もっと触れたい。今度こそ理玖を抱きたい」
熱い視線に全身が一気に熱をもつ。翔のフェロモンのせいなのか俺自身のせいなのか発情していくのがわかった。
そのまま床に押し倒される。翔は優しく俺を見下ろすけど、視線は鋭く俺は本能的に拒むことなどできないと思った。
まるで支配されている感覚だった。それでもちっとも嫌ではない。寧ろ喜びが止めどなく溢れてくるのがわかる。「いやだ」と言いながらも、どんどん湧いてくる情欲を隠すことなど到底できなかった。
「もう俺以外、見るな」
「んっ……あっ」
少し乱暴に翔の手が服の中に滑り込む。直接肌に触れているだけの翔の手に否応なしに快感を与えられ、みるみる下半身が熱くなるのがわかった。翔の熱にあてられて、俺は全身が蕩けるように力が抜けてしまっていた。
「俺だけを見てろ……理玖」
気付けばひんやりとした床が肌に触れ、翔もシャツを脱ぎ捨て肌が露わになっていた。夢中になっていた頭が少し晴れ、俺は翔の胸に手をあて「待って」と制した。
「ここじゃ……いやだ。ベッド……」
翔は小さく頷くと何を思ったのかそのまま俺を抱き抱えると、いとも簡単にベッドへ俺を放り投げた。
「ごめんな、優しくできない……」
辛そうな顔を見せながら翔は俺が身につけているものを全て乱暴に脱がせ、ぐっと体を押さえつける。力の入らない体とは対照的に、いきり勃ったそこは今にも熱を吐き出さんとしていた。欲情している翔が俺に触れていると思うだけで果ててしまいそうになるほどの快感だった。
俺の体を弄りながらしきりに「俺以外を見るな」と呟く翔に、きっと伊吹に抱かれたことを知っているのだと察し胸が苦しくなる。
「翔……ごめん。大丈夫……優しくなくていい……」
勝手に湧き出てくる愛液が翔を受け入れる準備をしている。貪るようにキスをする翔を宥めるように俺は頭の中で翔の名前を何度も呼んだ。
静かな部屋に荒い息遣いと汗ばんだ肌の触れ合う音が響く。俺は翔に与えられる快感にされるがまま体を開く。翔の熱い滾りが容赦なく俺を貫き奥を抉った。
体位が変わるたびにビクビクと体が震える。とろけきった体はもう言うことを聞かず、与えられる快感と初めて感じる幸福感に俺は只々喘ぐことしかできなかった──
知らない間に俺は翔に頸を噛まれてしまっていた。
初めて翔と体を交わし、今までに味わったことのない幸福感に胸がいっぱいになる。俺は嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。ポカポカと体の奥から湧き上がってくるこの感情は、すぐ隣にいる翔のおかげだと言っているのに、翔は承諾もなしに俺の頸を噛んでしまったことがショックだったのか、さっきから涙を溢して俺にひたすら謝罪をしていた。
「そんなに俺と番うのがいやだったの?」
「違う! 好きになってもらうところから……のはずだったのに、我慢できなかった。俺、抑える事ができなかった」
あんなに雄の顔をして俺を組み敷いていたくせに、ここまで来ると笑ってしまう。翔を受け入れ抱かれた時点でもうお互い「運命」なのだとわかったはずだ。それにお互いのフェロモンに影響されているのだからそうなることは必然だったのだと俺は思う。翔が噛んでくれなくてもきっと俺から「噛んで」と強請っていただろう。
「いいんだよ。翔に見つけてもらえて良かったって思ってるから。意地悪言ってごめんね。俺の運命は翔だから……番ってくれてありがとう」
初めて俺は素直に言葉を伝え、翔の涙にキスをする。
翔はこれ以上ないくらいの笑顔で俺のことを抱きしめた。
end……
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