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『しょーたしょーた』
通知音に気付いてアプリを開くと、なにやら呼び掛けられたところだ。章太はキーボードアプリに親指を乗せる。
『え、はい?』
『プリンとバスチー、どっち?』
なんの二択だろう、と考えながら、「バスチーたぶん食べたことないです」と返した。黒也は「じゃあバスチーにしよ」と答えて、いっしょに、すっきりモダンな雰囲気のショーケースの写真を送ってくる。
コンビニスイーツの話かと思ったのに、グレードが違う。
『え、あの』
『ここパン屋もあってさ。明日の朝用になに買う? サンドイッチかブレッド』
『じゃあ、さんどいっち……?』
『なんの疑問形?』
ぽんと戻ってくるその一言の向こう側に、黒也のふわっとした苦笑顔が見えた気がして、章太の心臓は引き絞られたように痛くなった。……思い返してみれば、章太が部屋に泊まる日、黒也はスイーツを携えて帰って来たり、朝、こちらが目を覚ます前に食べものを調達しに出掛けていたりする。
(もしかして)
(オレも甘えても、いい……のかな)
例えばそれは、お風呂上がり、章太の髪をわざわざ乾かそうとしてくれる時とか。
章太がそうしたいと願うのと同じに、黒也もきっと、章太のために何が出来るかを探してくれている。そう思ったら、堪らなくなった。
『よし、サラダも買っとこ。章太、明日は俺といっしょに寝坊しよ』
「……はい」
ちゃんとお礼をしようと思うのに、ばかみたいに指が震える。なんでこんなに勝てないんだろう。息をするたび、心臓がじんじんとして、電車の中なのに泣きそうだ。
『すきです』
ありがとうございます、と打つはずだった指先が、もっとずっと短い一言を黒也へ送っている。
駅はあと三つ。電車を降りれば、自分は家主よりも先にマンションの扉を開くことになる。そうしたら、今日もちゃんと美味しいごはんを作ろう。
目映い星を脱ぎ捨てて夜空から降りて来る、たったひとりのあなたのための、一皿を。
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