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 じゃあお先に失礼します、と教室を後にして徒歩数分、最寄り駅の改札をくぐったタイミングで、片手に握ったままのスマートフォンがぴこんと通知音を上げた。 (あ、……っと)  章太は壁面広告の傍らに立ち止まってから、スマホの画面を見る。  なにか急な予定変更でもあったのかな、と身構えたのに反して、送られてきたメッセージはずいぶん平和なものだ。思わず口元がゆるんでしまうのを自覚しながら、章太は「お疲れさまです」と言葉を返す。 『ずっとしょーたのごはん考えてる。ハラヘッタ』 『何が食べたいですか?』 『なに作れる?』  相手のシンプルな問いかけに、章太は「ええと」と口の中に呟く。さすがに、すぐには答えられない。それ以前に、スケジュールの変更が特にないのなら、このままマンションに向かっても大丈夫なんだろう。  ポスター前を離れ、章太はホームへの階段を登り始めた。  家主が(飲みものを取る以外には)開けることのない大きな冷蔵庫の中身を、頭の中に思い描く。つい一昨日にいろいろ買い足したばかりだから、わりとなんでも作れるけれど……。  電車待ちのホーム、レパートリーをいくつか並べてメッセージアプリに打ち込むと、ほぼノータイムで返信が来た。 「……和食好きだなあ」  わかりました、と了承の返事をしながら、ぐっと夕闇の濃さが増した空を盗み見る。予備校の大きな看板の向こうに、夜の気配があった。退勤ラッシュは始まったばかりで、駅にはまだ制服姿の高校生が多い時間帯だ。 「あれっ、うそー!」  一つ隣の待機列に並ぶ女子高生グループの一人が、自身のスマホを見つめながら声を上げた。周囲の友達がそれに反応し、同じ画面を覗き込む。 「どしたん」 「あっ、これ噂になってたやつだね」 「え、噂なんてあった? いつ?」 「噂っていうか、だってめっちゃ人気あったし、あれで終わるはずないでしょってみんな言ってたじゃん」 「あー、続木黒也が料理してたやつだ!」 「そう~! 三月で終わっちゃったやつ! 夏にね、第二シーズンスタートだって!」  あたしこれめっちゃ見てたからすごい嬉しい、とスマホを胸に当てる一人へ、友達はそれぞれ「良かったね」と声を掛けている。  続く彼女たちの会話は、ホームへ滑り込んでくる電車の音とアナウンスに紛れ、章太の耳からは遠くなった。 (すごいな)  本当に、『続木黒也』の見せる輝きは大きく、強くて、いろんな人がそれを心待ちにしている。 (……オレも、がんばろ)  七月から再スタートする番組は、今度は「いつまで」という期限が設けられていない。好評が続けば、番組もずっと続くのだ。そして、もう一度チームを組むのに際して、番組側ははっきりと「高橋章太」を指名してオファーをくれた。その信頼に、ちゃんと応えたい。  そう思うと、鼓動がとくとくと速くなる。 (オレはやっぱり、この道が好きだな)

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