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虜②
オーナーの問いかけに、空は自分の身体を両腕で抱きしめながら言った。
「…あなたに答える必要はない」
「…ッ」
空の一言はオーナーの胸を突き刺した。
軽蔑するような空の眼差しにオーナーは言葉を失う。
「空君、私は君に嫌われていることはわかっていた。でも私は君をどうしても諦めきれない。私は君の虜だ。君のその顔も身体も強気な性格も…全てが愛おしいんだよ」
オーナーが空にまた近付こうとする。
「…近づかないで…っ!」
空は立ち上がり、浴室に逃げ込んだ。
「待つんだ!空君!」
オーナーは一拍遅れて追いかけるが、空は浴室の内側から鍵をかけ、浴室の壁にもたれかかった。
「空君、ここを開けなさい」
「いやです…!あなたが部屋から出ていくまで僕はここにいます…!」
「空君、私はオーナーだよ?そんな態度…」
「だから何!?権力を振りかざして人を従わせようなんて最低だ…ッ!」
浴室の扉一枚を隔てて、空の怒りに震えた声が聞こえた。
オーナーは、何も言えなくなってしまった。
失敗したと思った。
あの日、空に無理矢理挿入したことも、レオと空を接触させてしまったことも。
そのひとつひとつの行動が失敗だったのだ。
オーナーは暫く黙り込んで考えていたが、この場は一旦引くこととした。
「わかったよ、空君。今日のところは私は戻るよ。だが、忘れないでくれ。私は君を愛している。諦める気は無いということを。」
そう言い残すとオーナーは空の部屋を出た。
浴室には空のすすり泣く声だけが響いた。
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