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第1話
褐色の肌を持つ者は、東方より幸せをもたらすという。月の色をした髪に、豊潤な水を湛える湖色の瞳は、神からの恵投なのだと創世記にも記されていた。
確かに、腕に抱いた赤ん坊は神の祝福を受けたかのように愛らしかった。
「それじゃあ、兄さん。その子をよろしくね」
「よろしくって……ちょっと! カリナ!」
お互い十八歳になったばかりだった。
双子の妹のカリナは、生後数週間の息子をラナンに預けると、古い指輪を置いて家を出ていってしまった。この指輪は赤ん坊の父親のものだと言って。
名前もなかった赤ん坊に、ラナンは『リク』と名づけた。
リクとは、ザラ王国で『幸福』を意味する。
父親もわからず、母親にも捨てられたこの子が、少しでも幸せになれるようにと願いを込めたのだ。
そして、ラナンは決意した。
哺乳瓶から一生懸命ミルクを飲み、生きようとする彼の澄んだ瞳を見て。
「どんなことがあっても、僕が君を守るからね」
翌日、ラナンは古ぼけたトランクに荷物を詰めると、リクを抱いて家を出た。
家といってもバラック小屋だ。
以前住んでいた屋敷とは比べものにならない。
この家にも、辺境の寒村にも未練はなかった。
ラナンはリクと一緒に生きるため、都を目指して歩き出したのだった。
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