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リヒトとコウヤ・8
健太郎が事務所を出た後、大きな溜息をついたのは理人だった。
「全く、何考えてるんだろうなぁ。あの大手建設会社の社長息子が風俗嬢にイカれてるなんてよ。しかも自分の会社や婚約者もそっちのけで、当面の生活ができるほどの金を与えるって。文字通りイカれちまってんのかな」
「……恐らくあれはイカれてるんじゃありません。意図的にイカれさせられてるんです」
「あ? どういう意味?」
俺は口元に手をあてて考え込んだ。
単純に相手の思考を読むだけなら俺にとっては簡単なことだが、今回は健太郎の意思と、それとは別の何者かの意思がごちゃ混ぜになって伝わってくる。その為にノイズがかかって、全貌を上手く読み取れない。
健太郎に答えを突き付けるのはこれもまた簡単な話だ。誰に聞いても答えは一つ、「馬鹿な真似は止めろ」しかない。だけど当人は言ったところで聞き入れはしないだろう。何者かがそれを邪魔しているからだ。
「健太郎さんも潜在意識下で自分にストップかけてるんでしょう……だから俺の所に相談に来た。本当にイカれてる奴なら誰にも相談せずさっさと風俗嬢に金を払ってしまう筈です」
「まぁ、煌夜がそう言うなら間違いねえんだろうけど……。で、どうするつもりだ?」
「まずはその風俗嬢に会いに行きます」
健太郎に憑いている何者かの意思――それは恐らく「女」だ。これまで俺が幾度も感じてきた女独特のどろりとした黒い念が、さっきの健太郎からも滲み出ていた。
「そうとなれば店の場所とか聞かねえとな。嫌だなぁ、風俗街って苦手だぜ、俺」
「馴染みの嬢達と鉢合わせするからですか? それとも何か後ろめたいことでも?」
「そ、そんな訳ねえだろ。そういう人を見透かすような目で見るのは止めろ、俺の頭の中を詮索するなっ」
「しなくても分かりますよ、理人は単純なんだから」
咥えた煙草に火を点けて苦笑いする理人の横顔に、俺は小さく溜息をついた。
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