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クラブ「COSMIC TUNE」・5

 午後八時半。  理人のクラブ、「COSMIC TUNE」。  駐車場に車を停めて理人の後をついて行くと、それ用のホテルが並ぶいかがわしい路地に入ったところで四階建ての大きなビルが見えてきた。 「あのビルだ」  ビルの周りにはオープンを待つ様々な年齢の男女がいた。地べたに座り込んだり壁に寄りかかって煙草を吸ったり、仲間同士で、或いはスマホでやかましく話している。 「四階まで、全部がそうなんですか?」 「ああ。一階は曲とダンスがメインのフロア、二階は酒飲むのがメインのフロア。三階はVIP用、四階が従業員用だ」 「ということは、一般の客は二階までしか入れないってことですか」 「ああ、三階はVIP同士での知り合いしか入れねえ。煌夜は俺の連れだから必要無いけど、酒の値段もぐんと上がるぜ」  俺は周りで騒いでいる連中をちらりと見て言った。 「VIPとは思えない客層ばかりですね」 「でかい声じゃ言えないが、まあ、そうだな」  そんな連中の横を通り過ぎ、理人に続いてビルの中へ入る。オープン前のフロアは当然だけどがらんどうで、何人かのスタッフがあちこちのチェックをしていた。ステージ上では今日のイベントに出るグループやDJが楽しそうに話している。 「社長、お疲れ様です」  理人に気付いたスタッフ達がその場で全員頭を下げた。 「疲れてねえさ、俺何もしてねえもん」  意地悪なことを言いながら笑う理人に、スタッフ達の間にも緩やかな空気が流れた。 「それで、こいつが例の煌夜だ。俺の別口の仕事の相棒」 「煌夜です、初めまして」 「初めまして、よろしく!」  ぎこちなく頭を下げると、スタッフ達も笑顔で挨拶を返してくれた。どうやら皆、気の良い人達らしい。 「俺、煌夜にフロアの案内してるから。お前ら引き続き仕事してくれ」 「あ、社長! 実は」 「ん?」  スタッフの一人が理人の耳元で何やら囁いている。すると理人は表情を一変させ、慌てた様子で二階に続く階段へ顔を向けた。 「本当か? 何時くらいになりそうだ?」 「九時半までには……」 「クソ、いつもいつも急すぎるんだよ。こっちの都合も考えろって」  事情が分からなくてぼんやりしていると、理人が両手で拝むようなポーズをとりながら俺に言った。 「悪い煌夜。ちょっと急用になっちまったから、しばらく待っててくれるか」 「………」 「終わったらすぐ合流する。本当に申し訳ねえ」 「分かりました、適当に待ってます」  俺の方が先約じゃないのか、なんて野暮なことは言わない。恐らくは理人がそう対処するしかないほどのイレギュラーな事態が起きたんだろう。ここは黙って言われた通りにするのが大人というものだ。

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