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毒・2

「三階からは紳士淑女の集まる場所だから、俺達もそれなりに演じないとさ」  そう言って悠吾が俺の手を取り、自分の腕に絡ませる。良い気はしないが、別段悪い気もしない。ただ男同士でこんな真似をしたところで何が変わるのかと思うと、何だか可笑しかった。 「細い腕だなぁ。ちゃんと栄養ある物食べてるか?」 「毎晩それなりの料理は口にしてますよ。俺は食事くらいしか楽しみがないので……」 「あはは、それなら問題ない。若くて健康なら、それだけでも価値がある」 「え……?」  三階へ続く階段の前に立っていたスタッフが、俺達の姿を見て姿勢を正した。 「悠吾様、上へ行かれますか?」 「ああ、そろそろ顔出してやらねえと」 「かしこまりました。上の者に伝えておきますので、どうぞごゆっくりお寛ぎ下さい」 「そうする」  どうやら本当に顔パスのようだ。悠吾もセレブ階級、それも相当の階級に位置している人間なんだろうか。 「足元、気を付けろよ」  さりげなく俺を気遣うその言葉からも、紳士然とした雰囲気が滲み出ている。階段を上がりながら、俺は理人とはまた違った男らしさというものがあることを知った。 「悠吾様、お待ちしておりました」  スタッフの案内で奥のソファへ向かう。 フロアは全体的に薄暗くて、はっきりとは分からないが誰も彼もが金持ちの匂いを漂わせていた。華奢なグラスでちびちびと酒を飲み、決して大口を開けて馬鹿みたいな笑い方はしない。一階の連中と同じビル内にいることすら信じられなくなるような、独特の空気だ。 「っ……」  そんな中、俺は悠吾の腕に置いていた手を瞬間的に引っ込めた。向かう先にあるソファに、理人の姿が見えたからだ。 「ああ、悠吾さん。お久し振りです、……って、煌夜っ?」  向こうも俺に気付いて目を丸くしている。何か言う前に飛んできた理人が俺の腕を引いて悠吾から引き離し、そのまま壁の方へ移動した。 「どうしたんだよ、何で来たっ?」 「そこの人が、知り合いがいるからって。理人のことも知ってるみたいでしたけど」 「馬鹿。……ったく、よりによってあの男かよ……?」 「知ってるんですか、理人も」 「ああ……とにかくすぐ二階に戻れ。俺もあと少しで行けるから……」 「社長」  いつの間にか理人の背後に立っていた悠吾が、口元を歪ませて言った。 「俺の友達に、何か問題でも?」 「悠吾……さん。すいません、こいつは俺の連れなんですわ」 「へえ、それは知らなかった。社長に彼のこと紹介しようと思ったけど、それじゃあ逆に俺を彼に紹介してもらおうかな」 「………」

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