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毒・3

 苦虫を噛み潰したような顔で、理人が俺の肩に手を置く。 「煌夜。……こちらは、柳田悠吾さんだ。柳田グループ会長のご子息、次期会長でもある」  柳田グループ。つまり理人の上司ということか。 「悠吾さん。彼は煌夜、俺の……弟分みたいなもんです」 「へえ、知らなかったな。聞いてないけど、ウチで働かせてるのか?」  柳田悠吾は俺の横顔に向けて冷たい微笑を浮かべている。理人の怒りにも似た赤い念が、ほんの少し強まった。 「いえ、煌夜は俺が五年前に新宿で拾った男です。それ以降、俺が面倒見ています」 「あはは。拾ったって。犬や猫じゃあるまいし」  理人は俺達の「仕事」のことを言わない気だ。それなら俺も黙っている他ない。 「でもまあ……そうか、そうか。じゃあお前らは赤の他人てことだよな」  悠吾が俺の手を引き、ソファへと座らせた。その隣に自分も腰掛け、肩に腕を回される。馴れ馴れしい男だ。相変わらずの冷笑は、今は俺でなく正面に立つ理人へと向けられていた。 「……ですが悠吾さん、俺は煌夜のことを自分の家族のようにも思っています」 「ふうん。君はどうだ?」  俺に視線を向けた悠吾がつまらなそうに言った。 「君も社長のこと、家族だと思ってるのか?」 「ええ、まあ」 「うーん、残念。彼さえ良ければ柳田家の養子にしてやろうと思ったのに」  ――ふざけんな。 理人の心の声がダイレクトに聞こえてくる。強力な「声」は時として俺の意思に関係なく伝わってしまうのだ。 怒ってくれてるのか、理人……。 「まあ、社長も座ったらどうだ」 「失礼します」  高価なガラステーブルを挟んで、理人が俺達と向かい合う形で腰を下ろす。表情も声のトーンも変わらないのに、理人から発せられているのは直視できないほどの物凄い敵意だ。よほど、この男――柳田悠吾のことが嫌いらしい。  俺は理人の敵意を受け、隣に座る悠吾へと意識を集中させた。 「それで、どうなんだ経営の方は」 「来月ウチの専属グループが大手音楽会社からデビューします。大々的に宣伝してくれてるんで、その効果かウチもかなり恩恵受けてますよ」 「ふうん。デビューしてもコケたら俺に言えよ。ウチの顔に泥を塗ろうモンなら、そいつら別の方法で稼がせる」 「はあ……」  金持ち息子特有のイキがったブラフではない。――この男はやると言ったらやるし、今までもそうしてきた。彼は人を使って儲ける方法を熟知している。どんな人間にも価値があると当然のように思っている。……もちろん、「利用価値」という意味でだ。  理人の話では、柳田グループは数点のクラブ経営の他にも風俗店や水商売、カジノにAVプロダクション、メーカー、有料会員制動画サイト、雀荘にバーに脱法ハーブ店など様々な事業を行なっているらしい。恐らく、表に出ていない違法な会社も数多く存在しているだろう。  柳田悠吾の不敵な笑みは、邪悪な自信に満ちていた。他人からどう思われるかなんて微塵も気にしていない。嫌われ、たてつかれ、呪われようと、悠吾にとって他人の事情や感情など世界の裏側よりもどうでもいいのだ。  最強、無敵――この男には、その自信と確信がある。

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