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第6話・選ばれた堕天使
人生、何がどうなるかなんて誰にも分からない。
まさか俺にこんな話が来るなんて思ってもいなかった。昨日までの俺はただ「可愛い弟を大学に行かせたくて働いてるんです〜エヘヘ」と客に媚を売っていただけなのに。
嫌いじゃないけど、俺にとってセックスは金を稼ぐ手段でしかない。今しか売れない体を限界まで使って金に変えると決めたあの日、母さんの愛人が家中の金と預金通帳を持って夜逃げした。
弟は俺と違って真面目で優しい奴だった。大人の馬鹿騒ぎが続く部屋の隣で、いつも懸命に勉強していた。バイトだって頑張っていた。遊びたい盛りの高校生でありながら、唯一の自由時間は寝ている時だけ。俺は何もしてやることができなかった。
世の中、努力家で優しい奴が損をするようになっている。弟のバイト代まで持っていかれたと知った時、そしてそれを含めた家中の金が、ある一人のキャバ嬢に注ぎ込まれたと知った時――俺は、「搾取する側」に回ると決意した。
絶対に弟を大学へ行かせる。部屋も用意して、獣医になりたいという夢も叶えさせる。クソ野郎に持っていかれた金を、同類のクソ野郎共から取り返して何が悪い。
俺が東京BMCナンバーワンの「リオ」であり続けること。
それはこの世に生きる全てのクソ野郎共への復讐だった。
「おめでとうリオ君。柳田副会長から直々に選ばれたんだよ、流石だね」
「悪趣味〜。一晩、金持ち爺さんのオモチャになれってことでしょ?」
「爺さんとは限らないよ。副会長みたいな若い御曹司だっているし、どこぞの渋いイケオジ社長だっているだろうよ」
スタッフルームで店長から説明された時は、正直言って嫌悪感しかなかった。
若い男達を競りにかけて、その一晩を独占する権利を入手する――いかにも上級クソ野郎が考えそうなことだ。
「もしもそこでリオが見初められたら、囲って貰うこともできるしさ。売り専での売上げなんて比じゃないくらい稼げるよ」
「売り専はいつでも辞めれるけど、愛人は自分のタイミングで辞めれないじゃん」
「リオ乗り気じゃない? お断りしとこうか?」
「やるよ稼げるなら。……それで? いつ開催されるのさ」
店長が何枚かの書類を机に出して言った。
「厳密に言うと、リオは書類とプロフ写真が通っただけで、まだ決定した訳じゃないんだ」
「勝手に個人情報流さないでくれる?」
「ごめんごめん、柳田グループトップからのお達しだったから、つい張り切っちゃってさ。そこは本当にごめん」
別にいいけど、と呟けば、店長が「最終候補に残った君へ」というふざけたタイトルの書類を俺に渡してきた。
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