そんな理人の明るい光に、良からぬ色が混じり始めた。これは俺もよく知っている「あの色」だ。 「お前に隠し事はできねえって知ってるから言うけど、マジで俺、毎日毎晩、我慢してんだからな」 「はあ、……」 「俺の欲求不満全開オーラを浴びてるはずだから、煌夜だって欲求不満だろ」 「多少の影響は受けますけど、だからって別に同じ気持ちにはなりませんよ」 「今度影響を受けたら必ず言え。その時いる場所が何処だろうと押し倒す」 　今でも良いのになと思いながら理人に続いて事務所の出口へ向かうと、ドアの向こうからけたたましい足音が響いてきた。 「誰か来るみたいです」 「ん？」 　確認する間もなく俺達の目の前でドアが開いた――一瞬、心臓が止まりかける。 「壮真理人、ツラ貸せてめえ」 　現れたのは見るからに堅気の人間ではない、若い男達だった。それも五人。派手な柄のシャツに金色のごついアクセサリーをつけ、刃物のように尖った目で俺達を睨んでいる。 　理人の知り合いでもこういう男達はいるが、今ここにいる彼らは明らかに俺達、ではなく理人に対して敵意を持っている。獣のような息遣い……柳田悠吾とはまた別の、あからさまに危険な念が渦巻いていた。 「誰だてめえ」 　理人は顔色一つ変えていない。こういう場面には慣れているのか、俺を自分の背中に隠し、五人を前に少しも怖気付いていない様子だった。 「うるせえ、さっさと付いてこい」 　五人の中で一際敵意剥き出しの赤いシャツを着た男が、理人の胸倉を強く掴む。 「ウチの事務所で全部吐かせる、覚悟しとけ」 「………」 　理人が無言のまま男の腕を逆に掴み、次の瞬間──俺の目では捉えられないほどの速さでその腕を捻りあげた。 「痛てぇっ！　やめろ、この野郎！」 「兄貴っ」「大丈夫すか、兄貴！」 「大丈夫な訳ねえだろっ、てめえら、この男を早く連れて行け！」 　弟分達が何かをする前に、理人が「兄貴」を解放した。 「……マジ痛ってえ、なんだコイツの握力、ふざけんな。ゴリラかよ」 　腕を摩りながら涙目になった男を見て思わず吹き出しそうになったのは、どうやら理人も同じらしい。 　だから乗り込んできた輩達をそれ以上詰めることなく、逆に宥めるように言ったのだ。 「ちゃんと説明しろ。納得いく理由だったら、お前らの事務所に行ってやる」