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決着・2

 奥の部屋を理人に任せ、煌夜は手前の部屋から順にロックを解除して行った。突然のことに動揺する「商品」の青年達。落札された者はすぐさま部屋に戻されたため、今三階で起きていることを全く知らないのだ。中には煌夜をグループの人間と勘違いして怯える者、飛び掛かって来る者もいたが、「逃げるぞ!」。煌夜のその一言で、皆即座に立ち上がった。 「煌夜!」 「理人、……」  未だ意識のないリオを抱えた理人が、不安げな顔の青年達に言う。 「階段で一階まで下りて、裏口から出る。車があるから三人ずつ乗れ」 「アンタ達を信用していいのかよ?」  一番始めに出品されたハヤトが憎々しげに理人を睨み「もう騙されるのはごめんだ」と吐き捨てたのに対して理人は何かを言いかけ、しかしハヤトを一瞥したたけでリオを抱えたまま廊下を進んで行く。 「好きなだけ疑ってくれてもいい。とにかく今は急いでくれ」  ハヤトはまだ納得していない表情だったが、残りの八人は素直に理人に従った。皆それぞれ、あのステージの上で一度自分を殺したのだ。例え目の前の二人に騙されていたとしても、自分達に面白可笑しく値をつけていた男達の元へ行くよりはましだと思っているらしかった。 「理人さん!」 「國安!」  非常階段に続く扉を開けた瞬間、外で待機しているはずの國安と鉢合わせした。顔を真っ赤にさせた彼は肩で呼吸をしながら、理人に抱かれているリオを見て落涙しそうになっている。 「國安っ、車はどうした?」 「ま、回してある。理人さんの部下が二人きて、状況聞いて……俺、居ても立っても居られなくって……」 「……よし、急ごう」  煌夜は理人の背中を追いながら、ある種の不安を感じていた。  どういう経緯があったのかは分からないが、柳田悠吾が熱を注いで計画していた人身オークションというイベントを、自分達は徹底的に潰したのだ。ステージ上で煌夜が意識を取り戻した時、理人の体にはあの毒のような柳田悠吾の念がべったりと付着していた。  きっと悠吾はまだ建物の中にいる。金や損害云々ではなく、柳田グループのトップである悠吾の顔に泥を塗った自分達を――理人を、このまま無傷で逃すとは到底思えなかった。 「煌夜?」  思い詰めた顔をしていた煌夜を見て、理人が階段を下りながら問いかける。 「大丈夫か」 「……理人。一階の裏口は奴らに塞がれています」 「っ……」 「関係ねえっ、全員ぶっ飛ばせばいいんだろ!」  叫んだ國安に、煌夜は首を振って少しだけ笑った。 「それも爽快ですけど、寝てるリオを庇いながらだと少し難しそうです。なので國安さん。リオと彼らと一緒に、三階で待っててくれませんか」 「はぁっ?」  理人と國安が揃って煌夜を振り返り、足を止める。目の前の踊り場の先には丁度、三階フロアへ続く非常扉があった。 「今このビルで一番安全なのは三階です。國安さんは顔が割れていませんし、彼らもステージに立った時とは服装が違うからバレることもないと思います。グループの奴らも恐らくVIP客を移動させた後は、フロアごと放置するはずです。その後で彼らがいなくなったのに気付かれたとしても、あの騒ぎの中なら上手く隠れられる」 「よ、よく分かったけど。あんたらはどうするんだよ?」 「……決まってるよな、煌夜」  煌夜は理人の手を握り、はっきりと「下」を見据えて言った。 「俺達は決着をつけに行きます」

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