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第10話・決着

 覚えているのは、リオが倒れたこと。それからイーゲルに捕まったこと。  リオの代わりにオークションに出ることになった。磔にされて、……そこからもう、何も覚えていない。  いや、理人の声を聴いた気がした。理人の目を見た気がした。  俺の名を呼び、俺を見ていた。理人が、俺のすぐ近くにいた――。 「………」 「煌夜。……煌夜っ!」 「り、ひと」  気付けば、自分の体は理人の腕の中にあった。愛する男の心地好い腕の中。煌夜はこの温もりを知っている。朦朧としていた意識がゆっくりと覚醒して行き、煌夜は現実に引き戻された。温もりにではなく、耳をつんざくほどの爆音に。 「っ……な、何ですか。どうなってるんですか……」  見ればフロア内は老若男女入り乱れての異色な宴が繰り広げられていた。皆スピーカーから流れる大音量の音楽に踊りながら、酒を呷り、テーブルに土足で上がり、さっきまで優雅に談笑していたVIP客の男達を巻き込んで好き勝手に馬鹿騒ぎしている。 「大丈夫なんですか、これ……」  何がどうなってこんな事態に陥っているのか分からない煌夜に、理人が爆音を避け耳元に唇を近付けて言った。 「こいつらのお陰で救われたようなモンだ」  それより、と理人が煌夜を立ち上がらせる。 「大丈夫か。歩けるか」 「歩けます。……あ、あいつは? 柳田悠吾は。それにオークションは……」 「奴は護衛に守られて早々に撤退してったぞ。オークションは大丈夫だ、予定通り上手く行った」 「四階です、そこにリオが……」  理人の肩を借りながらステージを下り、その横にある従業員用のエレベーターへと向かう。とにかく一度ここから出なければ。それに、リオや他の青年達も連れ出さなければならない。 「尚政!」  途中、駆け寄ってきた部下の尚政に理人が指示を出した。 「龍司に連絡取って、あいつと一緒に裏の車で待機しててくれ。リオと他の奴らを連れて俺達もすぐに合流する」 「了解っ!」  やっとの思いでエレベーターに乗り込んだ二人は互いに見つめ合い、それから強く抱き合った。自力で歩けるようにはなったものの、煌夜の体は震えている。 「酷い目に遭わせた。すまなかった」  理人の手に頭を撫でられ、逞しい腕に抱かれ広い胸に顔を埋める煌夜。震えは恐怖や悲しみからくるものではない。再びこの腕の中に戻って来られたという、何にも代えがたい喜びと安堵だ。 「……俺こそ、勝手な真似をして……」 「いいんだ」 「あの時、何が起きてるのか殆ど理解できてなかったけど……理人の声だけ聞こえてました。……俺のために叫んでくれてた。理人の叫び、心の声も……全部、聞こえていました……」 「煌夜、……」  四階に着いたエレベーターの扉が静かに開く。煌夜は赤くなった頬を手のひらで擦り、視界に広がった廊下を見据え、言った。 「リオがいる部屋は一番奥です。理人、手分けして皆をここから出しましょう」

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