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桜舞う空の下で・2

 そして、理人。  龍司と尚政が車の前で自分達を待っていたのを見て、理人は危うく落涙しそうになったと言った。信頼のおける人間が傍にいてくれたことへの感謝、自分を信じてくれた二人の気持ちへの感謝。理人は俺を背負ったまま地面に膝をつこうとして、慌てて二人に止められたらしい。  あの時なだれ込んできた若者達による被害よりも、理人曰く全部俺が壊したという一階フロアの惨状の方が酷く、しばらくクラブは休業止む無しとされた。だが、今後正式に柳田グループからクラブ丸ごと理人が個人で買い取ることになったそうだ。改装をして名前を変え、今年の夏までにはリニューアルオープンを予定している。その時の理人は「社長」ではなく「代表」となるらしく、しばらくは施工業者との打ち合わせの日々が待っている。 「お疲れ様です、理人」 「煌夜もな。覚えてないのが勿体ねえ、お前本当に凄かったんだぞ」 「……多分もう、無我夢中で」 「あの時のお前、何か凄げえいい匂いした」 「匂い?」 「ああ、花みたいな爽やかな匂い」  理人が俺に鼻先を近付け、「今は匂わねえな」と首を傾げた。 「………」  瞬間。込み上げてきた想いに堪らなくなった俺は、伸ばした腕で理人にしがみ付いた。 「煌夜……?」 「理人」  そしていつからか胸に抱いていた理人への気持ちを、素直に声に出し伝えた。 「抱いて下さい」 「煌夜。だ、だけどお前──」 「今しか言いません」 「……マジか」  理人の腕に力が入り、強く抱きしめ返される。俺はその大きな体を強引に引いてベッドに上がらせ、下から思い切り理人の唇を塞いだ。 「ん、……ん、んぅ」  すぐに理人が俺の頬を両手で挟み、激しく舌を絡ませてくる。理人のシャツのボタンを外し、ベルトに手をかけ、探る指でファスナーを下ろす。恐らく理人が着せてくれた大きめのシャツは、再び理人の手によって脱がされた。  触れ合う唇は互いを求めて止まらない。裸になった俺達は狭いベッドの上で貪るように唇を合わせ、濡れた舌を絡ませ合った。 「んんっ、ぁ……理人っ、それ、……」 「どれだ?」 「やっ、……」  俺の首筋を強く吸いながら、理人が内股とその部分すれすれのところを手のひらで撫で回してくる。腰が疼くのは当然としても、体中が熱くて熱くて堪らない。これも理人の言う暴走した「力」の名残りなのか。 「銃弾跳ね返すくらいのとんでもねえ力だったからな。時間かけてゆっくり、何度もイかせてやらねえと体が辛いだろ」 「んっ、──う、うん……」  力を使ったことや他者からの影響を受けたことに対する体への浄化。それだけならここまで熱くはならない気がする。  ……多分いまの俺は、それほど理人を欲しているんだ。それは男としての本能であり、性欲とか発情といったものの部類に入る現象だと思う。これまで理人が我慢していたように、本当は俺だってずっと我慢していた。  だけどもうその必要はない。  俺と理人は今日これから、最後の一線を越える。

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