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14.寂しさと止まった時間6

 次の日は、1限目から体育の授業だった。  昨日に引き続きバドミントンで、座って見学する早川の前で、岸田と神崎が今日もゆるいラリーを続けている。  昨日の今日で、ほんの少しだけ気不味い。嫌味なこと言ってしまったのに、2人はいつもと変わらない様子で声を掛けてくれた。それに早川がどれだけ救われたことか。 「あーあ、そろそろバドも飽きてきたよなあ」 「……うん」 「そろそろなあ、別の球技…ソフトボールとかやってみたいかも!」 「……バット持ったことある?」 「あるに決まってんだろ!一緒にバッティングセンター行ったことあるじゃん……あ、やべ」  ぽーん、ぽーん、とゆっくり山なりな弧を描いていた羽は、カツン、と岸田のラケットの面ではなく金具部分に当たった。また神崎の元へ打ち返される予定だった羽は床に落ち、早川が座っている場所まで転がってきた。 「あ、わりぃ早川」 「…陽介、運動音痴だから」 「うっせーよ!気にしてんだからわざわざ言うなよ!」  2人が羽を取りに来たので、拾って渡してやる。 「…俺も、やってもいい?」  羽を渡す際、早川はそう言った。  昨日の何もやる気の無い自分とは違う。いつまでもウダウダしていないで、前へ進むと決めた。  昨日より前向きな姿勢を、2人にも見せなければならないと思った。  もう大丈夫だから心配しないで、と口で言うだけでは納得してはくれないだろう。だから、姿勢でこの2人に示さなければ。 「手しか動かせないから、2人とも詰まんないかもしれないけど…」  昨日は断ったくせに、調子良いやつ、なんて思われてしまうのではないかと心配だった。しかし、そんな心配は要らなかったようだ。  早川の言葉を聞いた2人は、驚いた顔をしていた。そしてそれは、みるみるうちに笑顔に変わっていく。 「やろうやろう!早川体育好きだもんな!」 「……俺のラケット、使って」 「じゃあ、まずは俺が相手だな!ほら、立って!」  2人が早川の腕を引っ張って、ゆっくりと立たせた。  ここ最近、ずっと手放したことが無かった松葉杖は床に放ったまま。神崎から受け取ったラケットを右手に持った。 「…よし、来いよ!」  3人でやったバドミントンは、ものすごく楽しかった。まだ1限目だということを忘れて、汗をかくほど一生懸命になった。  この時間を忘れるほど楽しいという感覚は久しぶりだった。怪我をして以来、初めてかもしれない。  昨日から早川の時間は動き出した。  次の夏に会えることを信じて、ただひたすら、前に進んでいく。

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