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永太郎と早川家10

*  ヴーー……ヴーー……  マナーモードにしたスマートフォンが震える音で目を覚ました。  ベッドヘッドの上で震えているのは、自分のスマートフォンだった。隣で眠っている早川を起こさないようにそっとベッドから抜け出し、寝室を出る。 「………もしもし」 『ああ、起きてたか。なかなか出ないから、寝てるのかと思ったぞ』 「寝てたよ。今この電話で起きた」  電話をかけてきたのは、大原の元保護者である佐野だ。なぜこんな早い時間に、と思ったがよくよく時計を見るともう昼と言ってもおかしくない時間になっていた。 「で、どうしたの?」 『どうしたって……お前がろくに連絡も寄越さないから、元気にしてるのかって……』 「え、特に用がないのに電話したの?あの佐野さんが……?」 『……私のことをなんだと思ってるんだ』  大原から見た佐野は、ぶっきらぼうで不器用で、とても自分から生存確認をするような人には見えなかった。  昔から思っていたが、佐野という人物は生きづらい人なのだ。世渡り上手な佐藤や穏やかな鮫島とは違い、意地っ張りで自分の意見は絶対に曲げない。 『まあ、知らせがないのは良い知らせと言うからな。早川くんと仲良くやっているんだろ?』 「まあ……あ、昨日、駿太の実家に行ってきた」 『そうか。楽しかったか?』 「うん、楽しかった」  それは良かった、と電話口で佐野が小さく笑う。  ふと、早川の家で見たアルバムを思い出した。自分にも、あのような成長の記録のようなものは残っているのだろうか。 「佐野さん、俺のアルバムってある?」 『アルバム?どうした、突然』 「駿太の家で見て、俺のもあるのかなって思っただけ」 『あるぞ』 「え、あるの?」  今まで一度も見たことがなかったから、無いものだと思っていたが、どうやら違ったらしい。 『あるに決まってるだろう。お前の写真は、俺と暮らす前の物もあるぞ』 「佐野さんと暮らす前って……母親が撮ったってこと?」 『ああ、お前の母親が亡くなる前に残していった』 「そっか…」  見る機会が無かっただけで、しっかりと残っていたようだ。  母親も佐野も、しっかりと自分の成長を楽しんでくれていたようで、なんだか心が温かくなった。 「それ、送ってくれない?」 『駄目だ。これは大事な物だから、そっちには送れない。見たいなら、こっちに見に来なさい』  早川くんも一緒に、と佐野は言った。  きっと佐野は、ろくに連絡をしなかったことに少し腹を立てているようだ。そろそろ顔を見せにいかないとなあ、と大原は思った。  電話を切って寝室に戻ると、早川が目を覚ましていた。 「ん……おはよ、ナゴ」 「おはよう。ごめん、起こしちゃったな」 「ううん、平気……電話、佐野さん?」 「うん、大した用事じゃないから大丈夫。身体は平気か?」 「思ったより、だいじょーぶ……」  ベッドに腰掛けて早川を撫でてやると、気持ち良さそうに目を瞑る。まだ半分眠っているようだ。昨日は少し無理をさせてしまったので、今日はとことん甘やかしてやりたい。 「ねえ」 「うん?」 「俺も、ナゴのアルバム見たい」  どうやら佐野との電話はしっかりと聞こえていたようだ。  今回は、早川の大切な家族を紹介してもらった。ならば、次は大原の大切な家族を紹介するべきだ。  幼い頃から普通の家じゃないと周りに後ろ指差されながら過ごしてきたが、大原は今、この家族を誇りに思っている。あの人たちと一緒に過ごして心から良かった、自慢の家族だと胸を張って言える。 「いいよ。見に行こう」  今度は大原が大切な恋人に、大事な家族を紹介する番だ。                  番外編 おわり

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