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お題『嘘、だったりして』

『終電逃した。泊めて』  もう何度目だかわからない、  お馴染みのメールが届いた十分後。  部屋のインターホンが鳴った。  ドアを開けた瞬間、思わず顔を背けたくなるくらいのアルコール臭が鼻をつく。 「お前、もうちょっと時間考えて飲めって、いつも言ってるだろ」  呆れる俺の声を、ヒラヒラ片手を振って受け流し、そいつは勝手知ったる様子で俺のベッドに倒れ込んだ。  大学時代から酒は飲み歩いていたし、そう弱い方では無いはずなのに、ここ最近はしょっちゅう飲み潰れてうちへやって来る。 「お前、段々弱くなってるんじゃないのか。前はここまで潰れてなかっただろ」  一先ずコップに水を注いで差し出すと、派手に脱色された頭がむくりと起き上がった。 「……嘘、だったりして」 「は? 何が?」 「……何でもない。眠いから寝るわ。オヤスミ」  まるで素面のような口調で一方的に捲し立てて、今日もそいつは、俺のベッドを我が物顔で占拠するのだった。  俺の部屋に居るのが、当たり前だとでも言うように──。

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