29 / 35

お題『聖域』

 毎日のように顔を合わせて、  挨拶を交わす。  呼べば必ず答えてくれて、  その瞬間は、  アンタは俺だけを見てくれる。 「先生」  職員室から出てきた姿を見かけて、  いつものように呼びかける。  俺の顔を見て、  柔らかく微笑む、眼鏡の奥の瞳。  俺よりずっと小柄なのに、  スーツのアンタは大人で、  制服の俺は、不自由な子供。  俺に出来ることは、  精々勉強が苦手なフリをして、  補習の約束を取りつけることくらいだ。  こんなに傍に寄り添ってくれるのに、  教師と生徒という聖域は、決して犯せない。  窮屈な制服を脱ぎ去てるときが来たら、  迷わずアンタの手を引いて連れ出すから。  だからずっと、  手のかかる俺を見ててよ。

ともだちにシェアしよう!