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2-01-1 恋人達のクリスマスイブ(1)

5時を回ると、メイン通りはイルミネーションが点灯する。 街路樹に飾られたLEDライトは、青白い光が連なり、星の瞬きのような美しさを放つ。 「すごい綺麗! 来てよかった。ねぇ、雅樹」 「本当だな。思っていた以上だ!」 ここは都内の有名な観光スポット。 クリスマスイルミネーションが見られるというので、電車に乗って遥々やってきたのだ。 すれ違う人たちも、「きれい」とか「かわいい」とか声を上げている。 あちらこちらで、写真を撮る姿が見え始めた。 「俺達も、写真撮らないか?」 雅樹はポケットからスマホを取り出しながら言った。 「うん。撮ろうよ!」 僕達は、クリスマスツリーをバックに寄り添う。 手を伸ばしてスマホで自撮り。 パシャ! 「きっと、記念の一枚になるよね」 雅樹は、スマホの写真を確認して首を傾げる。 「これはこれでいいんだけど……めぐむは表情が硬いな……」 「本当? もう一度撮る?」 「そうだな、めぐむってさ……」 「なに?」 「オナニーするとき、何を想像してするの?」 「え? 急になに?」 条件反射で、雅樹とのエッチを思い浮かべる。 雅樹の固いのが、僕の中に入ってくる感じ……。 ああ、想像しただけで、少しアナルがヒクっとしちゃうよ……。 パシャ! シャッター音。 「いただき! うん、いい表情が撮れたよ」 雅樹は満面の笑みを浮かべて僕をみる。 へっ? 僕は、騙されたことに気が付く。 次第に、かぁーっと、顔が熱くなってきた。 「もう、やめてよ!」 僕は、雅樹の腕をポンポンと叩く。 「あはは。あれ、言わなかった? 俺、めぐむがエッチなことを想像している表情が大好きなんだ」 「エッチなことなんて想像していないから!」 してたけど……。 「へぇ。まぁ、そういうことにしてあげるよ。ははは」 雅樹は、満足気にスマホをポケットにおさめた。 そして、通りの先を指さす。 「さて、どこかでご飯でも食べようか?」 「うっ、うん」 なんだか釈然としない……。 だけど、雅樹の笑顔ですぐにどうでもいいって気持ちになった。 夕ご飯を食べようとファミレスを転々として、奇跡的にも席の確保に成功した。 「やっと、落ち着いたね」 僕は、カバンを置きながら言う。 「さすが、クリスマスイブ。どこも混んでいるよな」 「でも、ラッキーだったよね」 「ああ」 僕達は注文を済ませると、さっそくプレゼント交換をすることにした。 プレゼントには予めルールが決めてある。 それは、ペアのプレゼントにすること。 二人離れていても、二人は一緒。 ああ、なんてロマンチックなんだろう。 これは、僕のアイデアなのだ。 我ながら、いいアイデアを思い付いたものだと感心する。 僕は早速、カバンから二つの箱を取り出した。 「はい、クリスマスプレゼント!」 「おー! 何かな?」 「お揃いのマグカップ!」 僕は、箱からコップを取り出して見せる。 「へぇ、猫の柄なんだ。可愛いね」 「どう? 気に入った?」 「ああ、もちろん」 雅樹は、空のマグカップで何かを飲むふりする。 使い勝手を確かめているようだ。 たまに、にやりと微笑みながら、決め顔で僕を見る。 ぷっ! なんか、すこし気色悪いけど……。 気に入ってくれたのは、確かなようだ。 よかった。 大成功! 次は雅樹の番だ。 雅樹は、カバンから小さい紙袋を二つ取り出した。 「じゃあ、俺な」 「何だろう? 楽しみ」 雅樹は、一つを僕に渡す。 「ははは。期待していいぞ! 開けて見て!」 バザバザバザ。 紙袋を開ける。 そして、取り出してものは……。 あれ? なんだろう? 「あー、ハンカチかな? 白にピンク? クリスマス柄? ちがうかな」 「ははは。めぐむ、よく見てみろよ!」 「えっ?」 僕は、ハンカチを広げてみる。 あれ? 四角じゃないんだ……って! 三角! 「これって……まさか……パンツ!?」 僕は、慌てて懐に隠す。 だれも、見てないよね? キョロキョロと回りを見回す。 こんなところで、パンツなんて広げていたら、変態だって思われちゃう……。 「ははは。あったり! どう? 気に入った? お揃いだぜ」 雅樹も、自分の袋からパンツを取り出して指でくるくると回している。 「ちょ、ちょっと! 冗談はやめて! 恥ずかしい!」 僕は、雅樹の指をパンツごとさっと抑えた。 「ねぇ、雅樹。これって冗談だよね?」 「ばっ、バカ! 冗談なもんか! いいか、よく考えてみろよ!」 雅樹は、怒った顔をした。 「えっ……冗談、じゃないの?」 いつになく真剣な雅樹に、僕は体を縮こめた。 雅樹は、先生のように人差し指を立てた。 「例えば、プレゼントがお揃いのマフラーだったらどうなる?」 マフラーかぁ……。 もし学校でみんなに見つかったら。 「おい、お前たち、ラブラブだな。ヒューヒュー!」 まさにカップルそのものだよね。 普通に冷やかされる。 「うん、付き合っているって疑われるかな」 「だろ? じゃあ、お揃いのハンカチだったらどうだ?」 ハンカチね……。 ひょんとした時に見られて、 「あー! お揃いじゃん!」と冷やかし半分から、「もしかして、お前たち……」 なんて流れもあり得るかも。 「うん。それもだめだと思う」 「だろ? じゃあ、パンツだったらどうだ?」 パンツね……。 学校で、一緒のパンツか。 体育の着替えはアウトだよね。でも、それ以外だったらどうだろう。 うーん。 そもそも、誰かに見られるものでもないしな。 「えっと……誰に見られるわけじゃないからセーフかな……」 「ほら! 分かったか! ははは」 雅樹は、えっへん、と得意げな顔をした。 分かったか! と言われてもな……。 僕は、改めてパンツを見てみる。 気がつかなかったけど、物は悪く無さそうだ。 白地にピンクの模様があしらわれている。 可愛いデザイン。 さすが、雅樹の見立て。 っと、言いたいところだけど……。 「で、でも……雅樹。これ、エッチじゃない? この形ってビキニっていうんだよね? 股のところキュッとしているけど」 「ああ、その通り。勝負パンツってやつさ。ふふふ」 「そっ、それに……僕の方のパンツって、もしかして女の子用って事ない? 小さいリボンが付いているんだけど……それに脚のところレースみたいになっているし……」 雅樹のを見てみると、明らかに形が違う。 「チッ、バレたか! 通販で買ったんだけど、男同士のペアがなかったからさ……まぁ、無いとは思ったけど。でも、ちゃんと収まるやつを選んだつもりだけど。どうかな?」 「もう! 収まるっていうな! どうせ小さいですよ……まぁ、お陰で収まるわけだけどさぁ……」 「まぁ、まぁ。大事なのはそこじゃないさ。ペアで同じ柄のパンツを穿くってところだから。ははは」 雅樹は、腕組みをして、うんうん頷いている。 「うーん」 僕は、なにか釈然としないまま目を閉じる。 同じ柄のパンツは、いいとして。 どうして、僕は女の子用のショーツなのさ……。 そんなの、普段穿けないし、それなら、一緒に穿くってことにならないじゃん。 やっぱり納得できない。 そんな僕に雅樹は声をかける。 「めぐむ、ちょっと、想像してみろよ。俺達、裸で同じパンツを穿いてさ」 「裸で? うん、うん」 「あそこを擦り付け合うところを!」 擦り? 付け合う? パンツ一枚の裸で!? やっ、やばい。 それって、僕の好きなシチュエーションじゃん……。 「雅樹、とっても、似合っているよ!」 「めぐむもな! こっちへ来いよ!」 「うっ、うん」 僕は、雅樹の裸に抱き着く。 そして、キスをしながら、お股のところを擦りつける。 「はぁ、はぁ、めぐむ……だんだん、大きくなってないか?」 「はぁ、はぁ、雅樹だって……もう、カッチカチじゃん!」 「めぐむ、もうパンツからはみ出してるぞ……うわっ、エロい!」 「だって……なんか同じパンツの柄だと、同じパンツの中に雅樹のと一緒に入っている気がしちゃうから……はぁ、はぁ」 「おっ、俺もだ……一つのパンツに二つのペニス……堪らねぇ」 「はぁ、はぁ、雅樹、僕、欲しくなっちゃうよ……」 パシャ! へっ? シャッターの音? 「いただき! ははは」 しまった……またやっちゃった……。 雅樹は満面の笑みで、スマホの画面を確認している。 もう! 僕は、照れ隠しに怒ろうとして手を振り上げた。 でも、あまりの雅樹の嬉しそうな顔に、スッと手を下ろす。 雅樹の微笑みってずるい! どうしてこうも僕は、雅樹の笑顔に弱いかな……。 僕はいつの間にか微笑んでいる自分に気が付いた。 僕ってしょうがないな……ふふふ。 丁度そこへ、食事が運ばれてきた。 僕達はドリンクのグラスを合わせて、チンと音をならす。 「メリークリスマス!」

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