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第8話
好きなのかって訊かれたら好きじゃない。だって気に入らない。頭の中でうろちょろしてさ。
風邪から完全回復して僕は桐島を探し回った。裏会館の南側にいた。太陽を浴びて本を読んでたから抱き着いた。
「君ならここに来ると思ってた」
桐島は小難しい本を閉じて僕を見た。それって僕のこと見透かしてるってことかな。単純ってこと?
「残念だったね。3ヶ所もう探したんだよ」
「…そう。体調はもう悪くないのか」
なんだよ突っ掛かってこいよって思いながらも久しぶりの桐島の髪をすりすりした。いい匂いがする。でも整髪料でちょっと硬い感じがあった。べろべろ舐めたい。シャンプーの匂いも嗅ぎたい。
「なんで僕がここにいるだなんて思ったのさ」
桐島は僕をチラッて見て俯いた。なんでだよ。太陽が当たる。日向ぼっこ。つまり猫。猫みたいに可愛いって言いたいんだな。かっこいいより可愛いよねってよく言われる。桐島も顔立ちは綺麗なのにな。地味なんだよな。前髪上げちゃうし。
「明日から前髪全部下ろしてよ」
「何故」
「そのほうが好みだから。あと普通に前髪下ろしてる真樹ちゃんが見たいから」
桐島は僕を見上げた。下がってる前髪を上げてみた。桐島は少し嫌がる感じがあったけれど抵抗をやめた。おでこの形綺麗だなって思って見てたら傷があった。前髪の生え際辺りにそんな目立ちはしないけれど、元の皮膚に戻らなくて盛り上がったまま治ったみたいな痕だった。僕は無意識にその傷を指でなぞってた。
「小学生の頃、階段から落ちて。それで」
「あ、分かる~!めちゃくちゃ怖いよね、階段の突き出たところの角ね!僕も小学校の時によく突き落とされたっけな」
それでこっちは落ちたことでパニックだから誰がやったかなんていちいち見てないし、なんとなくなくアイツらかなって思って確たる証拠なんてないから僕は先生とか親にはドジっで構ってちゃんの目立ちたがり屋だとばかり思われてた。もう過ぎたことじゃん。あの日々には戻らない。達央が転校してきて助けてくれただろ。話しかけてくれただろ。みんなに謝らせてくれただろ。もうこんなふうになりたくないって、髪も染めて瓶底眼鏡やめて、痩せてそれから性格だって変わった。でも染み付いて離れないね。毒を入れられた水を蒸留しただろ、濾過したんだ。だのに、そんな手間を加えたってことが、何より毒水だったってことの証なんだよ。
「成瀬、どうした?」
「あ、いや。ちょっと異世界いってた」
「冷や汗かいてる。病み上がりだろう、ぶり返すぞ」
桐島はハンカチで僕のでこと首をぽんぽんしながら拭いてくれた。
「ごめん、気を付ける」
「使うか」
金色の刺繍でブランド名入ってる小さなタグの付いた白いハンカチだった。差し出されたけれど首を振る。でも手は触りたかった。すべすべだった。
「いい。ごめんな?真樹ちゃんのハンカチ汚しちゃった」
「…自分用のは他にある」
隣に座って桐島の肩に凭れ掛かった。
「俺に上着を貸したから、風邪引いたのか」
「えっ」
僕が素っ頓狂な声を出したから桐島は顔を赤くして何か恥ずかしいことでもあるみたいに綺麗に閉じてる膝を見下ろしちゃってた。
「なんでもない」
「気にしてくれてたの」
「…別に」
可愛く思えて桐島の肩にぐりぐり頭を押し付けた。
「達央とはいっぱい喋れた?」
「君には関係ない」
「あるよ。真樹ちゃんは僕のものになったんだろ?教えてよ」
膝の上にお行儀良く置いてあった手を触った。僕の手、桐島の手と交尾させてあげる。
「達央とはいっぱい喋れた?」
「…話した。君のおかげだ、とでも言えば満足か」
「言ってくれても大満足だケド話せたなら満足」
本当に交尾するみたいに掌の下のところを軽く桐島の手首にぱふぱふ打ち付けた。エッチだ。僕も早く桐島の尻ぱんぱんしたい。
「優しいな、佐伯は」
「うん、達央は優しいよ。昨日、一昨日って看病しに来てくれたんだから」
「そうか」
「みんなに優しいんだから。ダメだよ、勘違いしちゃ」
桐島のカーディガンに頬擦りする。
「よく分かってる。よく…」
声は段々沈んで消えた。横から見た眼球の角膜ところが透明で綺麗過ぎて発狂しそうになった。ぷちっと押してみたくもなったし同時に何が何でも守らなきゃいけないって感じもした。頭がおかしくなりそうだから桐島の横顔見るのやめた。
「でも、そういうところに、俺は………いいや、何でもない」
僕のこと好きになればいいのに。そうすれば悩まなくていいのにな。でも一度達央のこと好きになっちゃったら、僕みたいなのはもう無理だな。達央は完璧過ぎる。大切にしてくれるし、情に厚いし。独占欲とか嫉妬深い人は苦労するだろうけれど。桐島はどうかな。独占欲は強いほう?嫉妬しちゃう?溜め込んでハゲそうだから桐島は苦労するかもな。
「優しいってのも罪だね」
「だから、俺みたいなのに好かれて………」
桐島の頭を抱き寄せる。頭がごちんとぶつかってお互いの髪がじゃりじゃりした。
「どしたの、今日随分と暗いじゃん。真樹ちゃんも風邪ひいてるんじゃない?」
大変だ!って立ち上がって、桐島に僕の影が重なった。でこにでこをぶつけた。普通だと思う。よく分からないけれど。
「熱はない」
「じゃあなんで元気ないの」
「君と居るからだ」
「僕のせい?」
でこから離れてついでにチュウした。チュウだけ。深くしない、深くしない、絶対濃いやつしないって誓って唇押し当てた。でも押し当て足らなくてバウンドしたみたいに何度も桐島の唇の柔らかさに弾んだ。ベロチュウしたいけれども多分そうしたら1日中ムラムラが止まらなくなる。
「ん、」
桐島がちょっと色っぽい声出して、唇を離した。
「忘れさせてあげよっか、達央のコト」
「いい…忘れるつもりはない」
「じゃあ必死に誤魔化すのに利用していいよ、僕のコト」
「いい、要らない」
つるつるすべすべの頬っぺたとか小さな耳朶とか触ってた。肌理細かいし僕の肌に吸い付くし瑞々しくて気持ち良過ぎ。漠然とどうにかしたいけれど、どうしたいのかは全然違う思い付かなかった。
「泊まりに来てよ。ラブホ行くの嫌でしょ。ラブホでもいいケド。ラブホがいい?」
「…っ成瀬」
「歯ブラシと替えのパンツ持ってきて。僕の使うの嫌でしょ」
「成瀬!」
面倒臭い片想いしてる細い身体を腕の中に入れた。僕のものになったのに達央のことが好きで好きで堪らないんだね。あんないい男すぐに忘れられるわけない。
「痛くしないから。大事にする。一緒に寝よ、朝まで」
胸に桐島が当たると落ち着いた。胸に何か当たると落ち着くものなのかな。だから女の子は僕におっぱい押し付けてくるのかな。桐島は色んなことを僕に教えてくれるんだね。
「そんな関係じゃ、ないだろう。君を好いている子たちに不義理じゃ……俺の言えることじゃなかったな」
「そんな関係だよ!だって他の女の子たちは僕のものじゃないケド、真樹ちゃんは僕のものだろ」
僕も女の子みたいにおっぱいがある気がして桐島の横っ面に胸を押し付けた。男はみんなおっぱいが好きなんだよ。桐島のせいで貧乳好きになっちゃいそうなんだけれども。でも桐島だから薄っぺらい硬い貧相なおっぱいがいいの。
「僕のものだよ、誰にも触らせない。あの女の子にも。一緒にいた女の子、誰?何?どういうつもりなのさ…」
浮気を疑う本当に面倒臭いカノジョじゃん、僕。嫌な女みたいになってるよ、僕に都合の悪いカノジョみたいに。そういうの面倒だからすぱすぱ切っていったのに。
「小松さんのことか。彼女はただのゼミの友人で、」
「でもあの子は真樹ちゃんのことそうは思ってないよ!」
なんだか桐島があの子の名前を親しそうに呼ぶのも気に入らなかった。鈍感なんじゃないの、あの女の本性にも気付かないでさ。自分を見てるあの目に本当に気付いてないの?
「な、何を言ってるんだ!」
桐島はいきなり眼鏡直して顔を真っ赤にした。明らかな動揺だった。僕だってその反応に動揺してるよ、怒りもある。
「別に。ゼミの知り合いくらいにしか思ってないかもよ」
「そ、そうだな。そのとおりだ」
こくこくしつこいくらいに何度も頷いた。激しい動揺はまだ治まってない。僕だって桐島のその長い動揺にまた焦る。分かりやす過ぎる。嘘が下手なんだよな、面白いじゃん、突っつけて。必死になって可愛いじゃん。でも浮気は許さないよ、今桐島のカラダは僕のものなんだから。ココロは達央を向いていたって。
「真樹ちゃんは僕のだよ。僕、真樹ちゃんが僕のものでいる間はカノジョとか作らないから」
「好いている人がいるのなら作ればいいだろう。違う、作るとか、作らないとか…お互いに好き合っているなら付き合えば……俺はただ成瀬の」
「僕の何?」
「成瀬の何でもない。君が誰かと付き合うまでのただの影だと思ってくれ」
僕の影。悪くない。またチュウした。柔らかい唇は嫌がらなかった。
「カノジョいない間は真樹ちゃんを僕のものにしてるんじゃないの。真樹ちゃんが僕のものになってる間はカノジョ作らないの」
桐島は目を逸らした。なんだよそれ。またチュウしてやった。今度は少し嫌がった。だから面白くなって2回チュッチュした。
「君を好いている子は多い」
「うん。知ってるよ。1+1が2であることよりずっとずっとね。そんな自明の理みたいな話今更するつもりもないよ。僕は真樹ちゃんのことを聞きたいの」
猫にするみたいに顎の下を撫でてやった。
「あの女の子とは何もないよね?僕のことおちょくろうとしてたの?達央の元カノなんだよ、しっかりして」
「……悪かった」
またチュウしてやろうかと思ったら桐島はチュウしちゃう寸前で素直に謝るもんだからチュウできなかった。
って僕は真樹ちゃんに口酸っぱく言ったのに真樹ちゃんはあの松子とか松代とかいう子と一緒にいた。手なんか繋いでバカみたい。達央が何か言って、悪いかもって思ったのに止まれなかった。
「僕のだよ!僕の!」
手を繋いがれてる真樹ちゃんの手を振り解かせた。女は僕をびっくりしたカオで見てた。達央が後ろから僕の肩を叩いた。別れたカップルだなんて思えないほど爽やかに元カノに挨拶した。気拙そうなのは簡単に達央をフッた女の方だった。
「真樹ちゃんは僕のだよ。触らないで」
女はまだよく分かってないみたいで、なんか冗談だとでも思ってるみたいににやにやし始めた。人が真面目な話してるのに。女は調子の良いことを言って真樹ちゃんの背中を軽く叩くと去っていった。変わったと思う。あんな女だったっけ?よく知らないけれど。達央と付き合えて勘違いしちゃったんだ。
「礼斗、どうしたんだ」
達央は僕の肩を抱いた。真樹ちゃんは俯いて僕の手を外そうとする。真樹ちゃんの手は僕の手なのに。消毒しなきゃだろ。
「真樹ちゃんは僕のなの。自覚持ってよ。真樹ちゃんは僕だけ見てればいいの。真樹ちゃんは僕だけ触ったらいいの」
ヤダヤダヤダ。真樹ちゃんは達央が好きなんでしょ。でも達央とはどうにもなれないんだ。じゃあ女のほうがいいに決まってる。おっぱいあって挿れられる穴があって声も高くて柔らかくて。
「いい加減にしろ、礼斗。桐島には桐島の付き合いがあって、都合があるんだ。オレが傍に居るんじゃダメか」
叱るみたいな言葉でも声は優しかった。僕の手が達央の手で真樹ちゃんの手から外される。
「礼斗、あんまり妬かせないでくれ」
達央は上手いなぁ。でもちょっと真樹ちゃんに悪い気がした。
「うん…ごめん、達央。じゃあね、真樹ちゃん。また会いに行く」
会いに行くってなんか変だ。自分で言って恥ずかしくなった。そんなカノジョとばいばいする時の機嫌取りで言う言葉が癖みたいに染み付いてるんだ。達央に肩を抱かれて真樹ちゃんと別れた。
「桐島のことが好きなんだな」
「好きじゃない。大っ嫌い。許さないんだから。許さないんだからな…」
「恋してる人はみんなそう言う。オレも何度か相談された」
苦笑いしながら達央は言った。
チョコレートアイスを買っていつも真樹ちゃんがいる場所に行った。約束とか待ち合わせなんかないけれど分かる。裏会館南側かそこからちょっと北に行ったロッカー棟裏にいる。暗くなったら中に入ればいいのにそこにいた。
「アイス買ってきたよ、食べなよ」
僕の声は拗ねてるみたいに響いた。真樹ちゃんは僕を見上げていた。包装を剥いたからもう真樹ちゃんは食べるしかなくて黙って受け取った。僕は真樹ちゃんの後ろに座り込んで頸の匂い嗅ぎながらおっぱい触った。喋りたくないな。なんか何も喋りたくない。喋ったら真樹ちゃんの顔二度と見たくないとか、あっち行けよとか言っちゃいそうだった。本心じゃないのに。真樹ちゃんのこと困らせたくて泣かせたくなっちゃうから。
「成瀬は食べないのか」
「食べない!二度と食べないんだから!絶対食べない!」
真樹ちゃんの背中にぐりぐり顔を押し付けてもう訳分からないくらい全部全部気に入らなかった。
「成瀬、どうしたんだ。また風邪か」
「違うもん。風邪治ったもん」
締め殺しそうなほど真樹ちゃんを抱き締めた。細い。硬い。冷たい。
「俺が佐伯の前の恋人といるのが気に入らなかった?」
「分かってるならなんで手とか繋ぐの。なんで、なんで!真樹ちゃんは僕のなのに」
達央だって言ってた。真樹ちゃんの人付き合いがあって、真樹ちゃんの都合がある。達央はいつも正しい。達央はみんなに優しい。元カノにも真樹ちゃんにも。
「もう傍に居てよ。真樹ちゃんのせいで壊れそう。離れないで。僕のものなのに…」
「佐伯に悪い。他のことならなんでもする。許してくれ」
「あの子やだ。あの子嫌い。どうして真樹ちゃんのことベタベタ触るの。真樹ちゃんのこと捨てて達央のこと選んだじゃん。別れた途端になんでまだ真樹ちゃんに近寄るの」
あの女じゃない真樹ちゃんに言ったって仕方ないし、あの女の目論見を本人にうっちゃけて本当に僕って少女漫画のヒロインいじめる悪役じゃん。でもあんな打算的な女が少女漫画のヒロインなわけないんだから。真樹ちゃんみたいな女の子が少女漫画のヒロインだよ。真樹ちゃんは男だけれども。
「佐伯の気を引きたいんだろう…分からないけれどな、その辺りの事情は」
あの人達央に似合わないからやだ。見た目も中身も全然釣り合わない。達央も真樹ちゃんのこと好きになればいいのに。
「真樹ちゃんは僕の…」
おっぱい触った。硬い。真樹ちゃんは身体を強張らせたけれど僕のものって自覚はあるみたいで嫌がらなかった。おっぱいさわさわしていたらぷつって乳首勃ってきてすぐには触らなかった。
「成瀬……っ、」
「礼斗って呼んでよ」
「…な、ん……で、っぁ、」
「真樹ちゃんは僕のもので、僕は真樹ちゃんの持主って分かりやすいでしょ。呼んでよ」
乳輪くるくるしたり手でおっぱい均して、掌にちょっとこりっとしたものが当たるの楽しかった。
「…っ、ぁなるせ…っぁ」
「呼んでよ。礼斗は達央も呼んでるから、礼 ちゃんとか、あっくんでもいいよ」
せっかくだから耳元で「真樹」って囁いたら身体がびくびくしてた。
「ぁ、ん……っく、…」
「ほら、アイス溶けちゃうよ。ちゃんと舐めて」
ついでに僕も真樹ちゃんの耳を舐めた。耳朶を舌先で捏ね回す。身悶えてすごく可愛い。
「っ…ぁ……んっ」
「齧って食べる?冷たくて齧れない?溶けちゃったところから舐め取って」
軟骨のところ唇で噛んだ。面白いくらいに真樹ちゃんは溶け出してるところ舐めて可愛かった。どうして僕はそのチョコアイスになれないんだ。真樹ちゃんに舐めて欲しい。真樹ちゃんの中に入りたい。入りたい。挿れたい。ちんこギンギンになっちゃって真樹ちゃんの腰に押し当てた。分かるかな。気付くかな。電車で変なおじさんとかにやられてないよね、こんなこと。僕だけだよ、僕だけがしていいんだからね。他の人に触らせないでよ。
「な、るせ…っくすぐ、た…ぁ…っ」
「くすぐったい?くすぐったいだけ?どうかな」
コリコリに硬くなってる乳首やっとくりくりしてあげた。がくって跳ねて、でもそんな深くは触らなかった。
「あっあっ…ぁ…」
「どうしたの?」
するする手を下に滑らせてヘソを押した。なんで真樹ちゃんには穴ないんだろ。あるけど。尻の穴にちんこずこずこしていいのかな。座薬とか挿れてるしいいのかな。真樹ちゃんに穴があったら、1日ずっとエッチすることしか考えられなくなるんだろうな。他の人が真樹ちゃんの穴に挿れたがるんじゃないかって。無理矢理他の人に真樹ちゃんの穴がいじめられちゃうの興奮するけどあくまで妄想だからなんだよな。泣いて怖がって気持ち悪がりながら気持ち良くなっちゃう真樹ちゃん。あくまで妄想だからだよ、レイプもののAVだって。本当にそんなことされたら相手の家庭ぐちゃぐちゃにするよ。もちろん真樹ちゃんのこともね。僕だけのものなんだから。乳首きゅって弱く摘んだ。
「胸……や、め……っ」
「呼んで?僕の下の名前分かるでしょ?」
「あ……や、と…、あやと、」
「そうだよ、真樹ちゃん。かわいいね」
アイスは棒だけになって、真樹ちゃんは僕の中でくたくたになっていた。髪に頬擦りする。はぁはぁ息してて少し僕の身体を背もたれにして休んでいたけれどそのうちよろよろ立ち上がってアイスの棒を捨てに行った。真面目だな。でもちょっと前屈みだった。トイレ行くなら僕も行く。抜いて上げる。後ろから肩組んだ。
「な、成瀬…なんで…」
「水臭いな、抜きっこしよ」
「…っ、は…恥ずかしい、だろ…」
「もっと凄いことしたし、これからもするんだよ」
僕等はロッカー棟にあるゴミ箱にアイスの棒を捨ててトイレの個室に入った。ただでさえ人の出入りが少ないのにトイレは学生証当てないと入れないところにあるから丁度良かった。早く真樹ちゃんのガチガチのちんこ触りたかった。一番奥の個室に蟻地獄みたいに真樹ちゃんを連れ込んだ。
「成瀬……こんなと、ころ…で、」
壁に押し付けて首の匂いすんすん嗅いだ。頭がバカになりそう。なんで真樹ちゃんはこんないい匂いするんだろう。肌がほんのり甘くて舐めるのやめられない。ずっと触ってたい。頭がくらくらする。
「礼斗って呼ばなきゃやだ」
「あ、やと!」
でこに手が当てられる。もう風邪治った。冷たい手が気持ち良い。掌にすりすりした。真樹ちゃんは溜息を吐く。
「帰るぞ。今日泊まってもいいか」
「いいよ!でもなんで!」
「いいから」
いきなり真樹ちゃんが優しくなってびっくりした。コンビニでパンツと歯ブラシ買うとか言って真樹ちゃんは僕を素っ裸にした後適当に服を着せてベッドに押し込んで買い物に行った。僕も行くって言ったのにダメだって言われたからベッド温めながら待ってた。すぐ帰ってきた真樹ちゃんは布団開けて隣も空けて誘ったのに布団掛け直した。
「一緒に寝んねするんじゃないの」
真樹ちゃんは僕を見てすぐあっちを向いた。その辺に転がりっぱなしの冷やっぺシートを僕のでこに貼って傍に居てくれたけれど口利いてくれない。
「ね、ね、真樹ちゃん」
「バカは風邪を引かないって言葉知ってるか」
「うん」
「ならいい」
ちょっと動くとすぐに布団を掛け直して押さえてくれる。
「風邪治ったよ」
「それならぶり返したな」
にべもなく真樹ちゃんは言った。レジ袋からレンチンするうどんを出して腹減ってないか訊かれた。僕はそれより真樹ちゃんといやらしいことしたい。
「エッチしたい」
「だめだ。完全に治せ」
「達央に感染るから?それとも僕の心配?」
真樹ちゃんは答えなかった。布団から手を伸ばしてちょっかい出すと手を繋いでくれたけど布団の中に繋いだまま戻された。
「真樹ちゃんが風邪になったら看病しにいくね」
「寝ろ」
時計が枕元にコチコチ鳴ってた。真樹ちゃんの手を握り締めて、ちょっと痛くなった喉をごほんごほんした。ゴソゴソ物音がしてマスク付けてもらう。お嫁さんじゃん。結婚だよ、真樹ちゃん。ずっと居よ…って目を閉じたところでスマホが鳴った。電話だ。達央からだった。
「なぁに」
『礼斗?酔ってる?どこ?』
「おうち。真樹ちゃんも一緒」
『真樹ちゃん……桐島か?それとも、』
きりしまだよぉって答えた時にちょっといつもの自分の声より曇ってた。鼻声になってるわ、これ。
『また風邪引いたのか。オレも行く。待ってて』
僕は真樹ちゃんを見た。真樹ちゃんは僕を見ていた。
「うん…」
電話が切れて、布団の中の繋いだ手が引っ張られた。
「誰か来るならお暇する。邪魔したな」
「居てよ、達央が来るから」
「尚更悪いだろう。佐伯によろしく言っておいてくれ」
真樹ちゃんは僕の手を放そうとする。僕は真樹ちゃんの手を放せないのに。
「真樹ちゃん帰るなら断るから、居てよ」
複雑そうなカオで見下ろされて僕はお願いするみたいな目を向けることしかできなかった。
「…佐伯に悪い」
「じゃあ居てよ。お願い。真樹ちゃん」
「俺と一緒に居るのがだ」
離したくない。嫌だ。傍にいてよ。僕は必死になって繁華街で別れたくないって泣き喚くみっともない女の子みたいに真樹ちゃんに縋り付く。真樹ちゃんは僕の体重を支え切れなくてバランスを崩した。大きく身体が傾いて頭ぶつけそうで僕は咄嗟に真樹の小さな頭を抱く。眼鏡の奥で真樹ちゃんの目が大きくなった。ちょっと動いたら鼻の先っちょがぶつかりそうだった。僕の喉がごく…って鳴った。チュウしたい。止められない。抑えられない。
「な、るせ……っ」
僕は目を閉じた。真樹ちゃん。桐島。押さえた頬っぺたがすべすべで唇が吸い付くみたいに柔らかくて蕩けて、眉毛が動いちゃう。
「う……んっ」
髪撫でながら弾むみたいにチュウした。
「成瀬、身体を冷やす、うんんっ…!」
口開いたから舌を挿れちゃった。ちょっと冷たくてアイスみたいだった。
「ふ、ぁァ…っ」
ぴちゃって音がした。冷たくてちょっと甘くていやらしい感じがして桐島はちょっと震えて僕はアイスを食べてる気分になった。逃げ惑う舌を追って呼吸が足らなくなる。ちんこがずくんずくん疼いて大きくなっていくのが分かった。桐島の手は僕の肩を押すのに力は弱くてやる気なさそうだった。
「んっ……」
ぽやぽやした。僕のケツに当たってる桐島のちんこ硬くなってる。騎乗位みたいに僕は腰振ってケツで桐島のちんこ摩った。
「ぁっ…ぅんっ」
桐島の首が後ろに沿って、こくんって僕の唾飲んだ。口離すと混ざった涎がぬとぬとしてて目に毒だった。
「身体冷やすな、ばか…」
「やりたい」
潤んだ目が僕を見上げた。熱くなることしたい。僕は桐島のシャツのボタンに手を掛けた。
「まずちゃんと治せ。悪化したらどうする」
「でも勃起しちゃった」
「だめだ。寝ろ」
顎に引っ掛かってたマスク戻されて背中叩かれる。桐島だって勃ってるのに。
「佐伯が来るんだろ?」
「うん」
ちょっと声が優しくなって背中を摩った。僕は良い子だからベッドに戻った。布団もちゃんと掛け直してくれる。
「病み上がりに油断するからだ。体力が落ちてることに気付け。養生しろ」
ぶつくさ言いながらちゃんと枕も服も直してくれた。やらしい気持ちが薄れていく。目蓋が重くなって睫毛がしぱしぱする。桐島は枕元で僕のことを看てくれていた。ありがとね、って言いたくなった。でも恥ずかしいし、なんだか泣きそうになって言えなかった。布団の中でおとなしくしていると桐島はベッドに寄り掛かったまま僕に背を向けてしまった。
「チョコアイス美味しかった?」
「ああ。それ分は役に立つよ」
「疲れたら帰っていいよ。感染っちゃうから」
僕はマスクの中でさらに布団で顔を隠してもごもご喋った。
「風邪っぴきめ」
カオは見えなかった。遠慮なく後ろ姿を眺めた。まだ何か話していたかった。僕の知らない新しい扉みたいなのが開ける気がして。マスク中でも温かい息が跳ね返ってくる。ちょっとまだ喉ががらがらした。その違和感を取り除きたくて咳をする。久々の眠気。最近ちゃんと寝れてなかった気がする。最初の風邪でちゃんと寝たはずなのに。
「ずっと真樹ちのことばっか考えちゃってね、眠れなくなっちゃうの」
「俺の何を考えるっていうんだ。面白くもないだろうに」
「真樹ちは達央のコト考えて寝れなくなっちゃうこと、ないの」
「…ある」
僕はへらへらって笑った。マスクの紙の繊維が頬っぺにぶつかって痒かった。
「真樹ちのこと考えるとね、ご飯食べるのも忘れちゃうんだ」
「ということは、俺が成瀬の体調管理しなきゃならないのか」
「してくれるの」
「無理だな」
傍に桐島がいる。喉はガラガラして鼻詰まって口呼吸だけれど嬉しい感じがした。
「とりあえずもう少し経ったら何か食わせる。それまで寝ていてくれ。佐伯が来ても起こさないからな」
うとうと眠くなって、僕は何か言った気がしたけれど何を言ったのかは覚えていなかった。ありがと、とか、おやすみ、とか、しくよろ、そんな感じのこと。起きられなかったら達央には悪いけれど、それはそれである意味桐島と2人きりでいいなって思った。2人の関係にはもう大きな亀裂が入っているらしかった。でも僕はなんでだか、柔らかいベッドで寝てるからだと思うけれど機嫌が良かったから、桐島が達央と上手くやれたらいいのにな、なんてことを能天気に考えていた。そうしたら桐島は笑うのかな。ふわって笑うのかな。きらきら笑うのかな。見たいなって。僕に向けられるわけないのに。別に全然興味なんかないのに。それでぷつっと寝てしまった。
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