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幸せのステップ(21)
彼を起こさないように、そっと寝床を離れた。
痛たたっ…身体のあちこちが痛い。後孔はまだ達也さんがいるみたいだ。
やっぱり『お手柔らかに』という日本語は通じなかったんだ…
でも、身体が綺麗にされてるのはすぐに分かった。
はぁ、とため息をついて、落ちた視線の先には…
「…またやられた…」
身体中に散らばる鮮やかなキスマーク!
俺の意識がない時につけたのか。
またため息をつきながら、取り敢えずバスルームに辿り着いた。
速攻で洗い終えると、見て見ぬフリを決め込んで朝食と弁当の支度に取り掛かる。
噂が治まる暫くの間、達也さんは係長に俺の送り迎えを頼んでくれてた。帰りだけのはずが行きもそうらしい。
もうこうなったらとことん甘えてやる!
人間開き直りも必要だと思う。
「達也さーん、おはようございます!俺、そろそろ先に行きますよー!うわっ」
「…ん…弘毅…もう一回…」
寝ぼけてる達也さんに絡め取られた。
何がもう一回!?どんな夢見てたんだ!?
「達也さんっ!会社!遅刻しますっ!
離してっ!!!」
「んー?あー、おはよう、弘毅。何だ、もう行っちゃうのか?あと5分だけ…」
顔中キスしてこようとするのを死守して、腕を突っ張って逃げた。
「遅刻しても知りませんからね!
行ってきますっ!」
こぉきぃ…と俺を呼ぶ情けない声に後ろ髪を引かれつつ、ドアを閉めた。
現在進行形で募る思いを確かめ合いながら、これからもずっと“ハグとキス”を繰り返して、俺達は2人で歩んでいく。
時々喧嘩もするだろうけど、それもまた愛のスパイスになるんだろうな。
絶対忘れちゃいけないのは『愛してる』って言葉と相手を思いやる心。
そして俺達は年を重ねても変わらずに愛し合うんだ。
左手の指輪が煌めいた。
そっとそれにキスを落とすと同時に電話が鳴った。
係長だ!
俺は鞄を掴んで振り返り、そっと呟いた。
「達也さん、愛しています。」
(了)
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