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第7話🌿報告と訪問と手土産
母さんの都合というよりは
凌杏の仕事の都合と
実父がいない日という
条件の下
再来週の土曜日になった。
僕は産休中だから
主夫業に徹してる。
料理は母さん直伝だ。
そのお陰で
凌杏に美味しいご飯を
作ってあげられることが嬉しい。
お腹の子は女の子らしいから
ピンクや白中心の服がいいかな?
でも、最近は男女問わず
好きな色を
着せる人もいるよね?
難しいなぁ。
二人にも
訊いてみなきゃね。
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二週間が長かった。
『やっと、あなたの
お母様にお会いできますね』
凌杏は僕が作った
ケーキが入った紙袋を持っている。
『そうだね』
家を出る前に古門さんに
電話をしたから
もうすぐ来るだろう。
『心綺人、来ましたよ』
早いなぁ。
「何時もありがとうございます」
古門さんは僕達が
出かける時に何時も
来てもらうタクシーの運転手さんだ。
『こちらこそ、
何時もありがとうございます』
妊夫の僕を何かと
心配してくれるいい人だ。
「今日はどちらまで?」
A市と行き先を告げた。
「遠出ですね」
そう、僕達が住む町から
実家のあるA市は
車で二時間くらいかかる。
『僕の実家に行くんです』
「妊娠の報告ですね」
目的を当てられた。
『そうなんです。
妊娠から半年以上も経ってから
報告に行くというのも
少々、緊張するんですけどね……』
忙しいからと
理由をつけて
先延ばしにしていた。
「きっとお母様は
喜んでくれますよ。
私も娘が妊娠の報告に
帰って来た時は
最初は驚きましたけど
やっぱり、嬉しかったですから」
そういうものなのか?
話ている内に着いたらしい。
『帰りもお願いします』
僕を先に降ろし、
ドアを閉める前に
凌杏が言った。
「勿論ですよ。
電話、待ってますね」
そう言って、古門さんは
会社に戻って行った。
チャイムを鳴らすと
母さんが玄関を開けて
くれたのはよかったが
直ぐに視線は
僕のお腹へと向く(苦笑)
大切な人を連れて行くことと
報告したいことがあるとは
言ったが、妊娠のことは
話していなかった。
同窓会の時と同じで
凌杏と手を繋いだままだ。
『初めまして、向瀬凌杏と申します』
手は繋いだまま挨拶している。
「初めまして、
心綺人の母で寿々崎愛桜です」
一旦、僕のお腹から
視線を外し、凌杏と目を合わせた。
「二人とも寒いから
とりあえず、入りなさい」
凌杏を洗面所に案内し、
二人で手洗い・うがいをした。
「母さん、その紙袋の中に
ケーキが入ってるから
切り分けてくれるかな?」
リビングに戻り、
母さんに頼んで
僕は凌杏と一緒に
ソファーに座った。
「はい、お待たせ」
母さんは切り分けたケーキと
三人分の飲み物を
お盆に乗せて来た。
「心綺人はホットミルクね。
凌杏君は紅茶で大丈夫だったかしら?」
『はい大丈夫です』
ニッコリと笑って凌杏は応えた。
「報告したいことって
“妊娠”のことだったのね」
紅茶を飲みながら訊いて来た。
『そうだよ。
だから、あの人が
いない日に来たんだから』
会いたくないし
顔も見たくない。
「六ヶ月ってとこかしら?」
流石母親だなぁ。
『うん。 女の子だよ』
美卯ちゃんみたいな
優しい子に育ってくれるといいな。
「あら、性別聞いたのね」
生まれてからの
楽しみでもよかったけど
洋服とか選びたかったからね。
『性別を聞いていたなら
教えてくださればよかったのに』
凌杏にも言ってなかったからね(クスッ)
『ごめんごめん』
笑いながら謝る僕に凌杏は
しょうがない人ですねと言いい、
教えてくれなかった罰ですと
隣に座っている僕を抱き締めて来た。
「仲良しなのね。
ところで、二人は
何処で出会ったの?」
母さんは母さんで
僕達のやり取りを見て笑っている。
『職場だよ。
凌杏は科学教師なんだ』
{薬}も作っちゃう天才。
『告白は私からでしたね』
当時を思い出したのか
凌杏はちょっと苦笑した。
『そっか、今の凌杏の年が
あの当時の僕の年なんだね……
そう考えると、三年経つのも早いなぁ』
付き合い出した頃は
こうなるなんて
想像すらしてなかった(笑)
『そうですね。
私がいい父親になれるか
わかりませんが心綺人は
いい母親になるでしょうね(๑^ ^๑)』
僕は逆だと思うけどね(苦笑)
「あら、二人ともいい親になれるわよ」
二人でお互いを誉めていたら
(僕は口に出してないけど……)
母さんが言った。
『ありがとうございます』
嬉しそうな、照れたような
表情 で凌杏が
お礼の言葉を言った。
律儀というかなんというか。
「凌杏君の
お家には挨拶に行った?」
母さんのもっともな質問に
さっきとは別の意味の
苦笑を浮かべて
凌杏が答えた。
『いえ、まだなんです。
父親は基本的
家庭のことに関しても
私のことに関しても
とにかく無関心で
生まれた当時は知りませんが
物心つく頃には
話しかけてくることは
ありませんでした。
学費などは出してくれましたし
虐待などはありませんでしたが
ろくに話したことがありません……
母親は普通の専業主婦ですが
妻が男性ということには
多少、驚くでしょね(苦笑)』
初めて聞いた凌杏の家庭事情。
『ですから、心綺人にも母親にだけ
会ってもらうことになりますね』
僕とは違った意味で
父親との仲がよくないみたいだ。
『そっか、わかった』
僕も凌杏も
父親には恵まれなかったみたいだ。
夕方になり、古門さんに
電話して来てもらい
僕の実家を後にした。
母さんは何時でも来ていいと
言ってくれたから
また、実父がいない日を
訊いて二人で行こうと思う。
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僕の実家に行った日が
十二月の終わりだった。
お腹の子は時折、
胎動を感じ元気だ。
クリスマスも正月も過ぎ
一月も半ばになり
三年生は自由登校になった。
二月になり、
凌杏の実家に行く日が決まった。
『今日はM町までお願いします』
今回も古門さんに
来てもらい、凌杏の実家に向かう。
「今日は近場ですね」
そう、凌杏の実家は
意外な程近かった。
お互い、実家の話をしたのは
今回が初めてだったから
どの辺なのかは知らなかった。
『はい、今日は
私の実家に行くんです』
「そうなんですね(๑^ ^๑)」
三十分程でM町についた。
「私は社に戻りますから
帰りの際は電話してくださいね」
古門さんの台詞に
何時も通りの返事をした。
凌杏は玄関の鍵を開けて
普通に入った。
『心綺人、どうぞ』
僕の手を引いて
洗面所らしき場所に
連れて来てた。
『お母さん、ただいまです』
それから、
リビングらしきドアを開けて
中に声をかけた。
「お帰り、久しぶりね
あら、そちらが?」
僕はお辞儀をした。
『初めまして、
寿々崎心綺人と申します』
手に持っていた紙袋を渡した。
「あら、何かしら?」
『心綺人がフルーツタルトを
焼いてくれたんですよ』
すかさず、凌杏が説明した。
「わざわざ、ありがとうね(๐•ω•๐)
二人とも、座って待っててちょうだい」
僕から紙袋を受け取ると
凌杏の母親はキッチンの方へ。
「お待たせ、心綺人君は
お料理が上手なのね(๑•᎑•๑)」
人並みにはできるけど
果たして、“上手”の部類に入るのかな?
凌杏は何時も
“美味しい”って言ってくれるけどね。
『そうなんです、お母さん‼
心綺人のご飯を食べたら
外食なんてできません』
ぇ!?
まさか、凌杏がそんな事、
思ってたなんて知らなかった(苦笑)
「この子が此処まで言うってことは
本当に心綺人君はお料理上手なのね」
確かに、凌杏は食が細い。
その華奢な身体の何処に
あんな体力と精神力が
あるのか不思議だ。
「心綺人君は妊夫さんなのね(๐•ω•๐)
この子は優しい?」
僕は首を傾げる。
『お母さん、
なんて質問してるんですか(焦/汗)』
こんな慌ててる凌杏は
初めてみるかも(笑)
『優しいですよ(๑^ ^๑)
僕が妊娠してから
料理以外の家のことを
やってくれてます』
めんどくさがりな
凌杏が料理以外の家事を
僕の妊娠がわかった時から
ずっと、やってくれている。
「そう、それならいいの。
最初、奥さんになる人が
“男性”だと言われてた時は
吃驚してしまったけど、
心綺人君はいい子みたいでよかったわ」
これは、
認められたってことでいいんだよね?
「食は細いし、
めんどくさがりだし
何かと手のかかる子だけど
支えてあげてね。
それと、何でも
相談してほしいわ(๐•ω•๐)」
凌杏の母親に認めてもらえて嬉しい♬*゜
夕飯はご馳走に
なって行くことになった。
父親は帰りが遅いらしい。
『ご馳走さまでした』
時刻は午後七時。
「こちらこそ、お粗末さまでした」
誰かの手料理なんて
久しぶりに食べた。
『古門さん、
すぐ来てくださるそうですよ』
いつの間に電話してたんだ?
『じゃ、そろそろ外に出てようか』
美釉さんにもう一度、
ご馳走さまでしたと告げて
凌杏と一緒に外に出ると
丁度、古門さんが来た。
『ナイスタイミングです(笑)』
「それはよかったです(笑)」
軽~く、でも不愉快にならない
絶妙な流しができるのは流石プロだ。
来た時と同じように
三十分で家についた。
『ありがとうございました』
「いえいえ、またのご利用を」
そう言って古門さんは
会社に帰って行った。
『凌杏』
家の中に入ると
何故だかホッとして
凌杏に抱き付きたくなった。
『おや、どうしました?』
『なんとなく、
抱き付きたくなっただけだよ』
心配そうな表情(かお)で
訊いて来た凌杏に笑顔で応えた。
『なら、いいのですが
不安な事や思う事が
ありましたら、隠さずに
教えてくださいね……』
流石旦那さん、僕の性格を
よく把握している。
外見だけなら僕の方が
タフに見えるだろうけど
実は凌杏の方がタフだったりする。
『うん、隠さずに話すよ』
“恋人”から“ “妻”になったんだから
隠し事はよくないよな。
『ありがとうございます』
お礼を言うのは僕の方だよ。
『僕の方こそありがとう』
こうして、
凌杏の実家訪問は無事に終わった。
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