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第8話
「渉が僕の部屋に来るなんて、珍しいね。すごく嬉しいよ」
「...っ、近づくな。今日は訊きたいことがあってきたんだ」
その日の夜、俺は大嫌いな兄の部屋へと訪れた。まさかまた自分から兄の元へ行く日が来るとは、と少しふけってしまう。
しかし全てはひよりのため。ひよりを喜ばせるため。
「訊きたいこと?何だい、何でも答えるよ。渉もやっと僕のことを知りたくなったんだね」
「...。兄貴さ、なんか好きな物とかあるのか?...趣味、とか」
兄の顔は一切見ず、目線を下に向けたまま俺は問う。その間も蛇のようなしつこい視線を全身に感じ、気持ち悪さで胃がむかむかとした。
「好きなのは、渉。趣味は渉とセックスすることで、渉の――」
「そういうことが聞きたいんじゃない!!...そういうんじゃなくて、たとえば音楽を聴くことだったら誰々の歌をよく聴く、とか」
「うーん...それは、難しいな」
簡単なことを聞いただけなのに俺のたとえを聞いた兄はまるで難解の問題を解くかのように、難しい顔をして考え込んでしまった。
普通そこまでして考えないと出てこないものだろうか。
まさかそれほど兄が俺以外のことに興味がなかったのだとは思わず、俺は引いてしまう。
やっぱりこいつは異常だ。さっさと話しだけ聞いてここから出よう。
「じゃあ何か欲しいものとかはないのか?...俺、とかって答え以外で」
中々答えが出ないことに痺れを切らした俺は直球で訊きたいことを言うことにした。
もう誕生日プレゼントを買うのだろうとバレてもいい。答えを聞ければそれでいいのだから。
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