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第7話
休日の昼間。めずらしく兄貴がいなかったので俺は悠々とリビングのソファで寛いでいた。
親父も母さんも仕事で家にはいない。俺の他にこの家に残っているのは...
「渉兄さん、今ちょっといい?」
「あ...ひより」
目の前に白い細い足が見え、そのまま視線を上げれば首を軽く傾けるひよりの小さな顔が視界に入った。
「ちょっと相談したいことがあって...」
「相談?」
「うん...あの、誕生日...歩兄さんの誕生日、あともう少しでしょ。だからプレゼントとかどうしようかなって」
向かえのソファに腰をおろし、照れたように笑うひよりを見て胸がモヤモヤとした。
忘れていた兄貴の誕生日。カレンダーを見ればその日まであと4日ほどだった。ちなみに兄貴の誕生日から2週間後は俺の誕生日だ。
だけどきっとひよりは知らないか、もしくは忘れているだろう。ひよりはまさに恋は盲目という言葉がぴったり合うほど心の中は兄貴...歩一色だ。
「プレゼント...か」
「うん。去年は歩兄さんの誕生日が過ぎてから私がここにきたの。だから何もしてあげられなかったんだ。だから今年はちゃんとしたくて、」
「あー、そっか。ひよりがここに来たのは兄貴の誕生日から1カ月後だったもんな」
「そうだよ。ふふっ、渉兄さんよく覚えていたわね」
そういい柔らかく微笑むひよりに俺は二重の意味でドキリとした。
そりゃまぁ...一目惚れしたんだ。そんなひよりが来た日を忘れるわけがない。でもそんなことを覚えていたことを言ったのは失言だったかもしれない。
...変に思われたら最悪だし。
「...てか、相談ていうのは要は何を兄貴にプレゼントすればいいかってことだろ?...あいつだったらなにあげても喜ぶよ」
そして部屋に戻って喜んだフリをするのをやめてごみ箱に捨てるんだ。きっとひより相手でも兄貴はそうする。
悔しいが...兄貴の行動パターンは嫌でも理解しているんだ。あいつは...俺を中心軸として世界が回っているから。
「うーん、それでも...本当に歩兄さんがもらって心から喜びそうなものをあげたいんだ。でも、そんなこと本人には聞きにくいし...」
「...じゃあ俺が探りいれて聞いておくよ」
「本当!?ありがとう、渉兄さん」
「その代わりさ、一緒にプレゼント買いに行かないか?」
それぐらい...いいだろ?ひよりが兄貴一筋なのは知ってる。きっと想いも伝わらないだろうということも分かっている。
だから...せめて楽しい時間、幸せな時間を少しでいい俺にくれないか?
心臓がドキドキと脈打ち、手に緊張の汗を掻く。
「あー、よかったらでいいんだけどさ...」
「ううん、全然いいよ!むしろ助かるぐらい!!やっぱり男子目線の意見とかも聞きたいしね」
向けられるひまわりのような明るい笑顔。
俺は頬を赤くし、はにかんだ。
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