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第30話※
「お邪魔します。渉君、いる?」
一応チャイムを鳴らし、家の中へと入る。数分前にメールは送ったが返信はまだきていない。
家の中も薄暗く、物音一つしなかった。
「渉君?どこにいるの?」
大きい声を出し、呼ぶがやはり渉は現れない。
渉の電話中の様子がおかしかったこともあってか、俺の中で妙な不安が生まれる。
「渉君、上がらせてもらうよ」
とりあえず渉の姿を軽く探そうと思い、靴を脱いだ...――その時、
「 あ゛あ゛ああぁぁぁっ!!」
「...っ!?」
突如つんざくような渉の叫び声が家中に響き、俺は慌てて声のした方へと走っていく。
声のした先は脱衣所で、奥の浴室の方から小さな物音がした。
すぐに俺は電気をつけ、浴室のドアを開けるとそこには全裸で頭を押さえて蹲る渉の姿があった。
「どうしたの!?渉君、」
「ひっ...ぁ...つち、や...土屋っ、」
「うわっと、大丈夫?叫び声が聞こえてきたから...すごくビックリしたよ」
しゃがみ込みポン、と軽く肩をたたけば、渉はひどく怯えた様子で勢いよく顔を上げたが、そこにいるのが俺だとわかると一息つく間もなく飛び付いてきた。
浴室は先程までお湯を使っていたのか温かかったが、俺に抱きつく渉の体は不自然に冷めきっていてガタガタと震えていた。
「土、屋...土屋、」
いつになくか細い声で俺の名前を呼ぶ渉。
一目で何かがあったのだろうということは分かった。しかし....
それにしても本当、こいつきれいな体してるんだよな。程よく筋肉もついていて、肌なんて吸いつくように滑らかだ。
そして僅かに残っているキスマークの痕がまた一層色香をはなっていた。
「大丈夫、大丈夫だよ。俺がついてるから」
俺の意識の向かう先は渉への心配などではなく...一度抱いた、この体だった。
肩に顔を埋め、震える存在。俺は荒くなりそうな息を押さえ、舌で自分の乾いた唇を舐めた。
―ははっ、俺はこんな状況でも...しかも男に、本気で欲情なんてするんだな。
今まで相手にするのは女ばかりで男なんて渉が初めてだった。
だからきっと俺はあいつ、歩と同じホモ野郎なんかじゃない。でも、今の自分の状況はどう説明するのが正しいのか。
熱くなりかける下半身の疼き。
―まぁ、今はとりあえず深いことは考えないで...やりたいことだけやればいいか。
俺の顔にはニヒルな笑みが浮かんだ。
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