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第29話※
「...ん、電話...か、」
すぐ耳元で鳴り響く電話の着信音で目が覚め、俺は大きく欠伸をした。
しかし画面を見て“渉”という文字を見るやいなや俺は一気に意識を覚醒させた。
「もしもし、渉君?急にどうし――、」
『土屋っ、今すぐ俺の家に来てくれ...っ、お願い、お願いだから...っ』
「渉君大丈夫?一回落ち着こう。何かあったの?」
『いいから早く来てくれよ!後で全部ワケを話すから...っ』
「う、うん。分かった、すぐに行く。着いたらワケもちゃんと教えてね?」
『分かったから早く来て...っ、家の鍵開けてるから勝手に入ってきてよ。家、着きそうになったらメールして。』
「分かった。それじゃあ、」
電話に出て1分もしないうちに切られた会話。
いつになく渉はひどく慌てている。...いや、怯えているような様子だった。
―あの渉が...珍しい。
先程の電話このことを考えながらベットから降りるとグッ、と体を伸ばす。
「早く来て、か。っていっても俺、今起きたばっかなんだけどなぁ」
―あぁ、なんというか面倒くさい。
こう思うのは悪いことなのかもしれないが、元々俺は好きだ、なんて感情も偽りのまま渉に近づいたのだ。
だから俺自身が渉に信頼されようが、どうされようが俺にはもう関係のないことだから、と割り切ってしまいたくなる。
「歩もいないし渉も、もう用済みなんだよなぁ。」
―まぁ、教育実習生として高校にいる間、暇つぶしとして弄ぶか。終わったら捨ててしまえばいいだけのことだし。
そしてもう一度大きな欠伸をすると、俺は渉の家へ行くべく、ゆっくりと家を出る支度をし始めた。
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