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第34話
「おはよう、渉!」
「...はよ」
翌日、俺は兄貴が死んでから初めて学校に行った。教室に入れば俺を哀れむ多くの目と目があった。
中にはいつも通り話しかけてくる奴もいたが、俺はまともに話すことすらできなかった。
話しかけてくる奴らの声など頭に入ってこない。
それもそのはず、朝起きてから今現在の間もずっと兄貴のことで頭の中が埋まっていたからだ。
土屋がいてくれた間は考えずに済んだ兄貴のこと。しかし、朝起きるとそこに土屋の姿はなく、代わりに置手紙があるだけだった。
やはり、教育実習生と、忙しいのは分かるがそれでも1人になったせいで俺は恐怖で頭を埋めつくされる。
今も四方八方から兄貴に見られている気がして、キョロキョロとあたりを見回してしまう。
―いつ、俺の目の前に現れるんだ。いつ、俺に触れてくるんだ。
俺は見えない兄貴の影におびえ、小さく震える手を抑えることができないでいた。
「なぁ、大丈夫か、渉。無理すんなよ、その...お兄さんが亡くなって――」
「あに、き...?兄貴が何だっていうんだよ!」
兄貴のことに過剰に反応し、俺は反射的に問いつめるような形で友人の胸倉を掴んだ。
「ちょ、落ち着けって。どうしたんだよ。渉らしくもない」
「...っ、悪い...ちょっと、頭冷やしてくる」
そんな俺を見て周りも訝しげな目をした。その視線の冷たさで漸く俺もハッとし、手を離すと振り返ることなく教室を後にした。
「俺は...おかしいのか?兄貴の、影におびえて...」
誰もいない、静かな廊下で俺は深い溜息をした。
だけど恐怖心は落ち着くこともなく、依然と手は小さく震えていた。
それからチャイムが鳴り、1時間目の授業が始まってもまだ、俺はそこで1人過ごしていた。
―そういえば、土屋はどこにいるんだろうか。土屋に、会いたい。きっと土屋に会えば、この恐怖心も昨日のようになくなるはずだ。.....土屋を、探そう
「...?」
そう思い、漸く立ちあがった時、俺はある違和感を感じ動きを止めた。
「...どうして、」
今は午前中。そして天気もいいため、学校の中は明るいはず....それなのに、なぜか渉のいるこの空間だけ、異様に薄暗かった。
「...どうなってんだよ、」
すぐに後ろを振り返って窓を見るが、外は闇に包まれているかのように真っ暗で、どうなっているのかは確認することができなかった。
―コツ...コツ...コツ...コツ...
「...っ!!」
そんな中聞こえた靴音。俺の心臓はドクドクと早鐘を打ち、緊張から手に汗を掻いた。
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