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第35話
―あいつが...こんな所にまであいつは来たんだ...っ、
俺はすぐさま、その靴音がする方とは逆の方向へと走り、階段を駆け上った。
上に行けば、人がいる。授業中だろうとなんだろうと関係ない。とりあえず人のいる場所に...
「っ、なんで、だよっ!?」
だが、俺は駆け上がった先に見えた光景に目を奪われた。
....そこは俺がさっきまでいた階だった。確かに上にのぼったはずなのに、だ。
すぐにまた上にのぼるがそれは変わらない。何度上っても、ループしているのか、同じ階にたどりつく。
―コツ...コツ...コツ...コツ...
その間にも後ろから聞こえる靴音は徐々に大きくなっていく。
「い...やだ...っ、来るな...来るな来るな――っ!!」
へたり、と体の力が抜けて廊下のど真ん中で尻もちをつく。
―コツ...コツ...コツ。
そしてついに足音はすぐ近くまで来て、止まった。
体中がガタガタと震える。恐くて後ろなど見れなかった。だが、だからと言って逃げることもできなかった。
「ひっ...ぁ...っ、」
スッと、あの冷たい指先が俺のうなじに触れ、ゆっくりと撫で上げる。
「 渉 」
耳元で囁かれるその声はやはり、嫌というほど聞き慣れた兄貴の声で、
「 君 は 」
俺の頸動脈を辿るだけだった指は段々と首全体に密着していき、
「 い け な い 子 だ ね 」
「...っ!?」
そう言われた瞬間、俺は強く気道を圧迫されて呼吸ができなくなった。
―いや、だ...死にたくない...っ、死にたく...
もがき、首を絞める手をはがそうとするが、その手はまるでくっついてしまっているかのようにへばりついて離れない。
「 渉 の 全 て は 僕 の も の だ よ 」
「...はっ...ぁ...っ、」
そして力なく上を向く顔。見えたのはうすら笑いを浮かべる兄貴の顔だった。
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