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第36話

 「...る君...わた...君...渉君!!」  「...っ」  「はぁ、よかった。何回呼んでも起きなかったから焦ったよ」  「...つち、や...」  「うわっと、ちょっとたんま渉君!ここじゃあ場所が悪い。ちょっと移動しよう...って、離さないし」  「土屋...土屋、また...また兄貴が...」  目を覚ましてすぐ。俺は目の前にいるのが土屋だとわかるやいなやすぐに抱きついた。  人目なんてどうだっていい。ただ安心したかった。  「 大丈夫、大丈夫。今ここに歩はいない。いるのは俺だけだ 」  するとしょうがない、といった様子で土屋はそんな俺を抱き上げ、すぐそこの空き教室に入っていった。  普段の俺だったらその、俗に言う“お姫様だっこ”に羞恥し大人しく抱かれはしなかっただろうが、状況が状況なだけにそんなことも一切気にしてられなかった。  「 ここならいいかな....それにしても、何だってあんな廊下のど真ん中で気絶してたの?たまたま俺が通りかかったからよかったものの... 」  「 兄貴...ここまで兄貴は来てるんだ。殺される...兄貴に殺される、」  「 渉君!少し落ち着いて。ゆっくり深呼吸しよう...うん、そうゆっくり...」  土屋の肩に顔を埋め、言われた通り深呼吸すれば、土屋の匂いがたくさん俺の中に入ってきて少し安心した。  ドクドクとなる俺の心臓の音や息遣い、土屋の温かな体温。それら全てを感じ取る頃には、漸く俺も平常を保てるようになった。  「 ...悪かった...もう、落ち着いた...」  どれくらい経っただろうか、一時的ではあろうが兄貴への恐怖心がおさまった時、俺は土屋に抱きつくのをやめ、立ちあがった。  「本当に、大丈夫?」  「...あぁ、」  今更ながら、土屋に抱きついていたという事実に恥ずかしさが生まれ、俺の口からはぶっきら棒な言葉が出てくる。  それに気がついたのか土屋は「うん、もう大丈夫そうだね」と言い、クスリと笑った。  「じゃあ俺、戻るから」  「気をつけて戻るんだよ、」  そして俺は恥ずかしさのせいで一度も土屋の顔を見ることができないまま、1人空き教室を後にした。

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