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第37話
ふと時計を見れば、時刻は昼時を指していた。ちょうど午前の授業が終わって昼休みに入った頃だ。
俺は教室の近くにある、生徒広場に向かって歩き始める。昼休みはその休憩スペースでいつも友人たちと過ごしていた。
きっと今も皆、集まっているだろう。
―とりあえず、戻ったらあいつに謝ろう。
思い出すのは、俺のことを心配してきたにもかかわらず、乱暴な態度をとってしまった友人の1人、タツという男子生徒のことだった。
周りにいた他の友人たちも俺の行動にはひどく驚いていた。
俺の行動は何も知らない友人たちからすれば、おかしな行動でしかないのだ。
広場に近づいていくにつれ、反省する俺は僅かに罪悪感さえ生まれ始める。
―あいつ等は何も悪くない。心配さえしてくれたのだから、
そうして広場のすぐ近くに来たとき、俺の耳に友人たちの会話が入ってきた。
「てかさ、渉だけど....」
その会話に入ろうと足を進めていた俺だが、不意に聞こえた1人の発言で足を止める。
「兄貴死んだじゃん。朝もなんか心配したタツにも謎にキレてさ、」
「あれは驚いたなぁ、タツもお気の毒に。」
「いや、俺は別に」
朝のあの時を言っているのだろう。友人たちの物言いにイラつきはしたものの、悪いのは俺のため、何も言い返すことができず壁に隠れて会話を聞き続けた。
「でも...俺、思ったんだけどさ...――
――なんで死んだのが渉じゃなくて兄貴の方なんだろうな 」
「...っ、」
友人の1人が言った言葉に俺は目を見開く。
それは兄貴が死んで、最初に母さんに言われた言葉と同じような言葉だった。
「だよなぁ、」
そして次に聞こえるのは他の友人の同意の声と、
「渉には悪いけど、俺も少しそんなこと考えたことある」
あの時、心配してくれていたはずの、タツの同意の声だった。
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