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番外編1-1

 「次はどこに行こうか。ねぇ、渉は行きたいところある?」  そういい、俺の手を握って恥ずかしげもなく人混みの中を歩く兄貴。  「あんたと行動したくない」と、俺は兄貴を拒否して繋がれている手をなんとか外そうとするが、逆に爪が食い込むほど強く握られ、俺は外すことを断念する。  「兄貴。手、痛い」  「だって強く握らないと渉、逃げるでしょ?」  「...もう、逃げるのは諦めた」  「そう、それはよかった」  前を向けば、目を細めて微笑する兄貴と目が合う。  兄貴は満足げに鼻歌を歌い、ようやく手を握る力を弱めてくれた。  今日は家族旅行2日目。昨日の夜に旅館に着き、そして1泊して訪れた今日、当日。俺は昼間からこうして兄貴に強制的に観光街を連れまわされていた。  それだけでも俺としては最悪な1日だ。しかし、もっと最悪なのは旅館に着いても兄貴と部屋が一緒にされてて24時間隣で過ごされる、ということだった。  これでは一般的に楽しまれる旅行も俺としてはただただストレスを溜める行事ごとにすぎない。  だがそんな俺とは違って兄貴は昨日からずっと機嫌が良く、いつも以上に周りに笑顔を振りまいていた。 こうなるとわかっていたから旅行に行きたくもなかった。  ―けど、ひよりがなぁ...  行かない、と言う俺をなんとか説得したのはひよりだった。やはり俺はとことんひよりには甘いらしい。  「お腹空いてない?大丈夫?」  「....空いてない。でも少し休みたい」  「それじゃあ...あぁ、そこのカフェに入ろう」  そして近くのカフェに入る俺と兄貴。そんな俺たちを大体の人間はわざわざ振り返ってまでして興味あり気に見てくる。  兄貴はそんな視線も気にすることなく、歩いていくが俺はそれが嫌で振り返られるたびに顔を下に向け、そわそわと落ち着かなくなる。  いくら周りにいるのが知らない人間だからと言っても、やはり意味ありげな目で見られるのは辛い。  いたって普通に歩いていく兄貴の神経が信じられない。  「何頼む?」  いや、むしろ兄貴は見せびらかしているようにも見える。

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