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番外編1-2

 「あれ、渉じゃん!」  「おう、タケル。お前もこっちに来てたんだ」  四人用のテーブルでわざわざ隣に座ってくる兄貴が嫌で、何気なくあたりに目を向けていると見覚えのある顔ぶれと目があった。  そいつは同じクラスのタケルという友人だった。  「家族旅行でさ。お前も...って、わっ!歩さん!こ、こんにちは!」  「あぁ、こんにちは」  タケルは1人のようで、俺だとわかると近づいて来たのだがその隣にいる兄貴に気がつくやいなや、急にかしこまった様子になった。  どこか嬉しそうに笑みをつくるタケルに俺はどこか気分が悪くなる。  しかし、兄貴と2人でいるのが嫌だったため「座りなよ」と相席を促せばタケルは遠慮なく向かえの席に座った。  同時に兄貴から意味ありげに手を強く握られたが、タケルからは見えないだろう、と思い放置する。  「タケル君、家族の方たちとは一緒に行動してないの?ここにいて大丈夫?」  「はい、大丈夫です。今、ちょうど別行動で、」  タケルがこの場にいるのが嫌なのだろう、兄貴は遠まわしにどこかへ行けとでも言うように、そう訊ねるがそんなことに気がつくでもなく、タケルは兄貴からの問いに嬉しそうに頬を緩めた。  兄貴を見れば、いつものように他所向けの笑顔をつくっているというのが分かった。  内心、タケルに対して毒づいているに違いない。  このままでは兄貴がどうにか言いくるめてタケルをこの場から去らせるだろう、と思った俺はいつになくタケルに何気ない話を振った。  そして続く会話が楽しかろうが、楽しくなかろうが、関係なく俺は笑顔で会話を続ける。  少しでも長くタケルをここに引き留めるために。  「...で、あの時のタケルさ、」  チラチラと兄貴を見るタケルの視線。きっと兄貴と話したくてしょうがないのだろう。  ―まぁ、話をそらす気はさらさらないが。...それにしても、  先程から俺の手を握る兄貴だが、徐々にその手に力が加わり痛みが走るようになった。  それは俺がタケルに笑顔を向ければ向けるほど強くなっていき...  「痛...っ!....いい加減に、しろよ!」  ついに手の肉が引きちぎられるのでは、と思わせるほど手に爪を立てて握られた時、俺は痛みで反射的に兄貴の手を思い切り振り払い...  「あっ!お客様大丈夫ですか!?」  その勢いのまま兄貴の手は運悪くも、ウェイトレスがもっていた出来たてのコーヒーが入ったカップにぶつかった。  そしてその熱い液体は兄貴の白い透き通った指先を汚した。  「...っ」  「何してんだよ、渉!あ、歩さん大丈夫ですか!?」  さすがの兄貴も笑顔を崩し、僅かに眉をひそめていた。  一瞬の出来事で固まっていた俺だが、兄貴のその表情になんとなく罪悪感を感じた。  「大丈夫だよ。渉は悪くないから」  慌てた様子のウェイトレスとタケルのことなど目もくれず、兄貴は俺の顔を見て柔らかく微笑んだ。  「...チッ、」  「えっ、渉!?歩さんをどこに...」  「...トイレ。ちょっと冷やしてくる」  嫌々ながら兄貴の手を掴み立たせれば、すぐにタケルは心配気に声をかけてきたが、俺は有無を言わせぬ声音でそういい無言でいる兄貴をトイレまで連れて行った。

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