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 「松高、お前どこ言ってたんだよ」  「あっ、穂波先輩!ごめんなさい、ちょっと先生に呼ばれてて...」  放課後。HRが終わり、職員室へ行ってから再び教室に戻ればそこには見慣れた存在が仏頂面で立っていた。  廊下の窓際に立つ穂波の黒髪は夕日で赤く染まっている。  「帰るぞ」  「は、はい!」  いつもの言葉。いつもの流れ。笑顔で走り寄ってくる松高を見て、穂波は口角をあげた。  あの事件から3ヶ月。体は回復し、2人は再び学校生活に馴染み始めていた。ーーーーー 二葉の存在も日向の存在もまるで初めからなかったかのように。  あれから穂波は松高に執着するようになっていた。登下校はもちろんのこと、休日の日もずっと2人は一緒にいた。  今の穂波は松高にとって、以前の大好きな先輩であって、先輩ではなかった。表面的には何も変わらない穂波。  しかし、明らかに穂波は別人になってしまっているようだった。いつも通り笑い、優しく微笑みかけてくれたかと思えば、あることがきっかけで突然暴力的になることもあった。 それはそう、決まって松高が穂波から離れようとした時だ。  その時の瞳は、あの日殺されかけた日に見た瞳と同じだった。その暗さにいつも松高は肝を冷やす。  だが、そうは言っても穂波は松高にとって大切な人だ。  そんな穂波に執着され、松高は素直に喜んでいた。ーーーーー 先輩には俺が必要なんだ、と。  長く付き合っていた彼女とは別れた。穂波に別れろと言われたから。  異性とはもう話していない。穂波に話すなと言われたから。  松高の自由な時間は全て穂波に捧げた。穂波に一緒にいろと言われたから。  穂波の言うことは松高にとって絶対的なこと。反抗する気なんて微塵も生まれない。  穂波の言う通りに動けば、いつも褒めてくれた。可愛がってくれた。  ただただ純粋に嬉しかった。  「松高、今日もちゃんと俺のいいつけは守れたか?」  「はい!守ったっす!ほ...褒められたくて、」  「そうか。偉いな、さすが俺の松高だ」  ガシガシと雑に頭を撫でられ、松高ははにかんで笑む。まるで飼い主に褒められた犬のように。  「なぁ、お前はずっと俺と一緒にいてくれるよな?ずっとずっと一緒。俺のことだけを想って俺のことだけを見続けるんだ」  そういい、松高の目の前に佇む穂波の全身は夕日で真っ赤に染まっていた。まるで血にまみれているように。  松高の瞳はその光景に心を奪われてしまう。  「じゃないと、お前のことも...ーーーーー 殺してやる」 最後にそう告げて、狐のように目を細め笑む穂波は、あの日の殺人鬼の影を目元に落としていた。

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