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ifネタ2-4※穂波視点

 気が付けば、手に血の付いた鋭利な刃物を握っていた。くぐもった視界に写るのは壊された扉と、倒れている人間の姿。  ふらふらと、揺れるようにその人物の元へと歩いていく。それはまさに、夢を見ているような無意識の空間。  『 殺してやる 』  自身の口が勝手に動き、言葉を発した。体は自分の意思と関係なく自由に動き回る。とても、とても不思議な感覚だった。  振り上げる包丁。その刃先は目の前で倒れている男に向けられている。  ― まつ...たか、!?  しかし、その人物を確認した途端、微睡んでいた意識が一気に浮上する。  なぜこんなところに松高がいるのか。なぜ倒れているのか。  ― 自分は一体、何をしているのか。  己の犯そうとした行為に肝を冷やした。だが、それでも松高を刺そうと振り上げた包丁を握る手の自由は奪われたまま。  『...い、や...いやだ...ッ、』  抵抗すればギギギ、と骨の軋む音がした。  今の状況についていけず、頭はパニックになる。何も思い出せない。体も、まるで誰かに操られているかのように自由が利かない。  ― このままじゃ、松高が...っ、  『...ッ、あ゛ぁ...クソッ、』  そう吐き捨てた瞬間、遂に包丁は勢いよく振り下ろされてしまう。  そうして重厚な肉を突き刺す感触が手に伝わった。...――― と、同時に脇腹からの激痛も伝わる。  『ひっ...痛、ぁ゛...ッ、』  松高を殺したくないという一心で込めた力。それによって刃の軌道は逸れ、自身の脇腹に刺さった。  口の端を血がこぼれ、つたう。味わったことのない痛みに穂波は死を覚悟した。  それでも、その痛さのおかげか先程まで自由の利かなかった体から無駄な力がフッと抜けた。  歯を食いしばり、包丁を体から取り去る。恐怖と痛みで穂波の瞳からは涙があふれ出ていた。  体内から血が流れていくのが、わかった。服に血が滲んでいく。赤く赤く、自身が染まっていく。  『う゛ぁ...グッ、』  だが、穂波にはやらなければいけないことがあった。死を直感するのと同時に、走馬灯のように思い出してきたのだ。2人を殺した、記憶が。自身であって他人のような意識が勝手に“穂波”という器を支配している一時。  穂波はその間、深い眠りに就いていたり、うつろな瞳でぼんやりとその光景をただただ眺めていたりしてた。  血の流れる脇腹を庇いながら、立ち上がり寝室に向かった。  『俺が...俺が、殺したのか...』  ベッドの上。真っ白なシーツを赤く染め、その中心で血の気もなくぐったりとしているのは、愛していた1人の人間。  罪の重さで、心が押しつぶされていった。...だが、立ち止まっている時間はない。  穂波はタオルケットで日向の亡骸と凶器である包丁を包み込み、意を決してベランダまで引きずっていく。  今の穂波では日向を持ち上げることなどできなかった。しかし、引きずるのでさえ出血が酷くなり、容易なことではなかった。

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