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第2話

 「春臣、起きろ朝だ!今日は新しいドラマの打ち合わせがあるんだ、早く用意して!」  「...あと1時間、」  「せめて5分って言ってくれ...はぁ、朝ごはん用意するからその間にちゃんと起きてくるんだよ」  「...。」  「起きてこなかったら、今日の夜はピーマンたっぷりの肉料理にするからな」  勝ち誇った京太のその一言に春臣は肩をびくつかせた。その雰囲気の変化に満足した京太は、「わかればよし」とだけ言い残し、春臣の部屋を後にした。  まるで母親のようなその男に春臣は逆らえない。しかし、春臣はわかっていた、京太のまるで家族として春臣を見ているような深い愛情を。そして春臣もまたそんな京太にだけは心を開き、ひどく懐いていた。  本当の親以上に、誰よりも。  金さえもらえれば、あとはどうでもいいと春臣のことを放置していた両親。そんな2人も暴力団の抗争に巻き込まれ死んでしまった。悲しみは微塵もなかった。――― 春臣の傍には京太がいてくれたから。  寧ろチンピラのように金を奪っていく汚い存在がいなくなってくれて清々しているくらいだった。  自分の好きな俳優業を続け、傍で京太が支えてくれる。その生活に苦痛はない。あるのは幸福だけ。  毎日が幸せだった。未来があった。輝いていた。...――― しかし、その生活はある日を境に脆くも崩れ去った。  「こいつが、お前の子ども...?」  春臣の視線は目の前の華奢な人間に向けられる。14歳という成長途中の小柄な体。春臣の頭何個分も低いその少年は不愛想な顔で春臣を一瞥した。  ある夜の日。京太の元に一本の電話がかかってきた。それは1人の女の死を知らせるもの。そして、残されたその女の息子のことについても。行き場のないこの子供の面倒を見てくれ、そう京太は頼まれた。  京太に息子がいたことなど知らなかった春臣だが、真摯な顔をした京太に詳細は後で話すから連れてきてもいいかと言われれば断ることなどできなかった。  「でも京太、お前今29だろ...こいつが14なら一体いくつに子ども作ったっていうんだ」  京太の息子だと名乗る少年...天宮千晶(アマミヤ チアキ)を風呂に入らせている間に春臣は呆れ半分に呟いた。  「てか、なんで息子がいるって言わなかったの。仮にも一緒に住んでるんだからさ、こういうことを予想して話してくれててもよかったんじゃない?」  いつになく饒舌な春臣。その心中はもやもやとした黒い感情が渦巻いていた。憧れていた家族の輪。その輪の中に入ってきた“息子”という存在が邪魔に感じていたのだ。  「...っ、実は僕も知らなかったんだ。電話で言われて初めて知った」  「...は?何それ、それだったらあいつがお前の息子かどうかわかんないじゃん。騙されてるんじゃないの」  「いや、違う、違うんだ。きっとあいつは僕の子どもだ。...なぁ、春臣、お前知ってるよな...僕が女ダメだってこと」  いつもは笑顔を浮かべる京太の顔に表情はなかった。瞳は揺れ動き、焦点が合っていなかった。  「僕さ、ある女に逆レイプされたんだ。近所の人で水商売してる人だったんだけどさ、ある日突然監禁されて、何日間もずっと犯されたんだ。その時僕は14だった。...昼夜関係なく何度も何度も何度も。本当、怖かったよ。あの日のことは今でも覚えてる、あれから僕は女がダメになった」  「まさか...っ、」  「 その女が千晶の母親だよ 」  そう聞いた瞬間、春臣は気持ちの悪さに身の毛をよだたせた。

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