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第5話

 物心つくずっと前には、すでに春臣は芸能界に入っていた。暴力団のチンピラをやっている父に、ブランド品に目がない母。  金が必要だった2人は生まれて数か月の春臣をすぐに金のなる木として育て始めた。  容姿だけはよかった2人の良い部分のみを選んだかのように春臣は誰もが認める美少年として育っていった。  だが、愛情は与えられなかった。家に居れば邪魔者扱いされ、金が無くなれば罵声を浴びせられる毎日。  そんな春臣の唯一の幸福...それが芸能界での生活だった。誰もが優しくしてくれた褒めてくれた可愛がってくれた。  春臣は幼いながらに家では与えられることのない愛情を求め、大人たちの顔色を窺うようになった。  そうして大人たちの求める“春臣”を僅か小学生低学年で理解した。だが、高学年に上がった頃、物事・感情を考えるようになった春臣は気づいてしまった。芸能界で与えられるものは結局は偽りの愛だと。    その場限りのものなのだ、と。...―――何故なら、その愛は仮面をした自身に向けられる愛だから。  それからというもの、春臣は役者をするためだけに仮面をつけ続けた。称賛される自身の演技...それは自分自身に対する評価であったから。何かを“演じる”という行為。それでしか自分の価値を知るすべがなかった。称賛されればこの業界で必要とされているのだと実感できた。  孤独な暗い日常から抜け出すことが出来た。  天才だと褒められれば嬉しさで胸がいっぱいになった。人に認められることがこんなにも充実感を与えるものなのかと感じることが出来た。  そこは、春臣にとっての唯一の居場所だった。  そうしてその後、春臣は京太と出会い、本当の愛情を知っていく。血は繋がっていなくても、家族のような愛は享受できるのだと。  だが、春臣はまだすべての“愛情”を理解していなかった。  身が悶えるほどに高鳴る、淡い恋心と...  そして    狂うほどに嫉妬にまみれた、激しい愛情を。  その2つの愛情は与えられるのか、それとも与えるのか。  この時の春臣には今後自分の身に起こることなど、分かるはずもなかった。

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